耳鼻咽喉科の主な疾患と治療方法

慢性中耳炎

主な症状

耳だれ(耳漏:じろう)や鼓膜に穴があいた状態(鼓膜穿孔:こまくせんこう)があり、難聴をきたします。

解説

本症は幼児期の急性中耳炎の炎症が完全に治まらず、鼓膜に穴があいた状態(鼓膜穿孔)が残存した病態です。慢性化にいたる原因には、①薬剤がききにくい細菌(薬剤耐性菌:やくざいたいせいきん)に感染したり、②耳と鼻とを連絡している管(耳管:じかん)の機能不全、③免疫力の低下などがあります。

治療方法

鼓膜の穴を閉じたり(鼓膜閉鎖)、耳だれ(耳漏)を停止させ聴力を改善させるには外科手術が必要です。その手術は鼓室形成術であり、中耳のなかの炎症産物(肉芽:にくげ)を除去し、破壊された中耳の伝音系を再建し、あらたに鼓膜を形成します。

よくある質問
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外来での鼓膜形成手術は行っていますか?

行っていますが、適応を厳格に定めています。乾燥した鼓膜であり、耳漏のない耳に対して行っています。外来での手術では、約1時間程度の手術で鼓膜の穴を閉じます。なお、鼓膜の再建材料として筋膜をつかうため、耳の後ろを数cmきらせていただきます。

内視鏡での治療は行っていますか?

当院でも、内視鏡による耳手術を行っています。内視鏡での治療は傷口が少なく、低侵襲でといわれ最近流行りだしています。ただ、従来の顕微鏡手術にくらべて全てが上まっているわけではありません。内視鏡では、片手操作になる点、立体視が困難である点、出血時の対応も困難といったデメリットもあるのが現実です。また、耳の後ろは傷口自体が目立ちにくく、傷口の大きさは他部位(胸腹部や首など)とくらべてあまり問題となりません。
当院では、内視鏡治療の良い点と顕微鏡治療の良い点を合わせながら治療に取り組んでいます。内視鏡での治療の方かメリットが高いかなど個々の患者様の状態を見極めてから、治療方針を立てており一度医師にご相談ください。

耳漏の出ている場合は、どのような手術になりますか?

鼓室形成術となります。鼓膜だけでなく、中耳腔の清掃も必要であり、耳の後ろを5〜7cmきって手術を行います。場合によっては、耳小骨の再建も必要となることがあります。さらに、MRSAや緑膿菌など耐性菌が検出される場合は、同時に点滴加療(手術前より)も必要です。

入院期間はどのくらいですか?

鼓室形成術による入院期間は4〜14日程度です。手術前の耳漏の有無や手術内容にもよりますが、耳後部のドレーン(血抜きチューブ)がはずれた段階で退院可能です。できるだけ患者様のスケジュールを優先したかたちで入院日程を決めており、主治医と相談ください。

麻酔は全身麻酔 or 局所麻酔ですか?

成人であれば、原則局所麻酔としています。ただ、手術中は鎮静剤投与にて眠った状態ですので、患者様が恐怖感を感じることはないと思います。局所麻酔のメリットとして、手術中に聴力改善の有無を確認できることがあります。小児や全身麻酔希望の成人の方などには、全身麻酔としています。

耳の後ろの剃毛は必要ですか?

最近では、耳後部の剃毛をせずに手術する施設も多くあり、当院でも剃毛せずに手術を行っています。剃毛しなくても手術は可能ですが、術後の処置においてガーゼ固定などが上手にできず困難なことがあり、患者様と相談しながら決めています。一度主治医と相談ください。

真珠腫性中耳炎

主な症状

耳だれ(耳漏)や難聴をきたします。また、病気がさらに進行すれば、めまいや顔面神経麻痺や髄膜炎を起こすことがあります。

解説

さまざまな原因により、鼓膜の一部がへっこみ(鼓膜陥凹:こまくかんおう)ポケットを形成し、そこにみみあか(耳垢:じこう)が蓄積します。耳垢が蓄積すると、周囲の骨などを破壊し、徐々に進行する病気です。小児期の反復・遷延する中耳炎や鼻すすりの関与が言われています。また、少しタイプが異なりますが、胎生期に皮膚の成分が中耳に迷入することでおこる、先天性の真珠腫も存在します。

治療方法

手術加療が必要です。上記の慢性中耳炎同様、鼓室形成術を行います。骨破壊が軽度であれば、手術は1回で終了しますが、さらに進行した真珠腫の場合は計画的に手術を2回に分けて行うことがあります。なぜなら、真珠腫が一部でも取り残した際に再発する(約1~2割)ことがあるからです。1回目には真珠腫を取り除き中耳を清掃することを行い、2回目には再発の有無を確認し、再発がなければ同時に中耳の伝音再建し、聴力改善を図ります。

なお、当院では主に外耳道後壁保存型鼓室形成術(canal wall up technique)を基本術式としています。この方法は、より生理的な耳の形(外耳道)を保つことにより、術後の聴力改善率が高く、乾燥耳になるまでの期間を短くする事ができます。また、術直後の頻回な通院も不要となり、状態が安定すれば6ヶ月に1度程度の通院で十分となります。さらに小児においては術後の水泳など、生活上の制限もなくなります。しかし、このようなメリットがある反面、術中の視野がとりにくいため真珠腫の再発率が高いというデメリットがあります。ただし、当院では年間の鼓室形成術件数250件以上という実績、経験や技術により再発率が10%以下 1),2)という好成績を誇っています。

参考文献
1)緊張部型真珠腫に対する進展度分類と聴力成績の検討
Otol Jpn 23(2):105-112, 2013 和田忠彦、岩永迪孝、藤田明彦ら
2)弛緩部型真珠腫における進展度分類と聴力成績の検討 日本耳鼻咽喉科学会会報116:83~90, 2013 和田忠彦、岩永迪孝、藤田明彦ら

耳硬化症

主な症状

徐々に聴力低下が進行します。また、逆にうるさい場所の方がよく聞こえると自覚される方もおられます。

解説

中耳の中には、音が効率よく伝わるように3つの耳小骨があります。その中でも、アブミ骨という耳小骨の動きが悪くなり、難聴をきたす病気です。特徴として、①難聴が徐々に進行することや、②両耳ともに難聴になることがあります。白人に多く、日本人には少ない病気でしたが、最近では日本でも多くなってきています。

治療方法

聴力を改善させるには、外科的治療(アブミ骨手術)しかありません。動きが悪くなったアブミ骨を摘出し、人工アブミ骨(ピストンワイヤー)を挿入します。術後、めまいをきたすことがありますが、一時的なものであり退院時には軽快します。当院では年間15例程度の手術を行っており、聴力改善は90%以上の良好な成績をおさめています。

副鼻腔炎

主な症状

鼻水、鼻づまり、頬や眼の奥など頭が重たい感じ(頭重感)、においがしない(嗅覚障害)

解説

一般的には「ちくのう症」ともいわれています。副鼻腔といわれるところに膿がたまり、上記の症状をきたしたりします。原因としては、細菌感染を繰り返し炎症が常態化することでおこると言われています。最近ではアレルギー性鼻炎の悪化を背景に細菌感染をおこすものが多くなっています。

治療方法

まずは薬物治療でコントロールしますが、重症の副鼻腔炎や数カ月の薬物治療でも改善しない場合は、手術の適応となります。当院では、鼻の中に内視鏡を挿入して、病変を除去する、内視鏡下副鼻腔手術を行っています。約1週間の入院ですが、術後しばらく鼻処置のため外来通院となります。また、喘息合併の副鼻腔炎に対しても、内視鏡下副鼻腔手術を行いますが、術後のコントロールが困難であり十分なfollow upが必要です。

アレルギー性鼻炎

主な症状

鼻水、鼻づまり、くしゃみなど

解説

アレルギー性鼻炎は鼻粘膜を舞台としておこるアレルギー反応であり、Ⅰ型アレルギーの代表的な疾患です。主に通年性と季節性のケースがあり、前者はほとんどがハウスダスト(ダニ)、後者はスギ・ヒノキ・ブタクサなどの花粉が中心となります。

治療方法

抗アレルギー剤の内服やステロイドの点鼻薬を使用します。効果がなければ、外科的治療となります。外来手術としては、鼻粘膜焼灼術をしています。また、重症の方には、粘膜下下鼻甲介骨切除(鼻粘膜はできるだけ残存させ、粘膜内にある骨をとることで鼻どおりを良くします)や後鼻神経切断術(鼻水の分泌に大きくかかわりのある後鼻神経を焼灼し、切断します)を行います。

鼻中隔彎曲症

主な症状

鼻づまり、鼻出血、においがしない(嗅覚障害)など

解説

文字通り、左右の鼻を隔てている壁(鼻中隔)が彎曲している病気です。成人の約7割以上に認められますが、その程度がひどくなると上記の症状を呈します。

治療方法

彎曲した鼻中隔を手術により矯正します(鼻中隔矯正術)。鼻の中に切開を加えて、鼻中隔を形成している骨や軟骨を取り除きます。ほとんどの方が症状の改善を認めます。入院期間は、約5~7日程度です。

慢性副鼻腔炎

主な症状

鼻水、鼻づまり、頬や眼の奥など頭が重たい感じ(頭重感)、においがしない(嗅覚障害)

解説

一般的には「ちくのう症」ともいわれています。副鼻腔といわれるところに膿がたまり、上記の症状をきたしたりします。原因としては、細菌感染を繰り返し炎症が常態化することでおこると言われています。最近ではアレルギー性鼻炎の悪化を背景に細菌感染をおこすものが多くなっています。

治療方法

まずは薬物治療でコントロールしますが、重症の副鼻腔炎や数カ月の薬物治療でも改善しない場合は、手術の適応となります。鼻の中に内視鏡を挿入して、病変を除去する、内視鏡下副鼻腔手術を行っています。さらに当院では、ナビゲーションシステムを導入しています。これは手術中の器具の位置を、術前に撮影したCT画像に表示させる装置で、高度病変や再手術例においてもより安全かつ正確に手術を行えます。手術治療には約1週間の入院を基本としており、その後はしばらく鼻処置のため外来通院となります。

好酸球性副鼻腔炎

主な症状

粘調な鼻水、頑固な鼻づまり、頬や眼の奥など頭が重たい感じ(頭重感)、においがしない(嗅覚障害)

解説

副鼻腔炎の中でも、特に難治性で再発率も高いやっかいな病気です。両鼻腔に鼻茸が充満し、頑固な鼻づまりや嗅覚障害をきたします。気管支喘息や耳閉感(好酸球性中耳炎)を合併することもあります。

治療方法

ステロイドという薬の内服が最も有効とされています。ただし完治は困難で、症状が出ないように病勢をコントロールしていく必要のある病気です。手術治療を行っても再発することが多いとされていますが、現実的には重症例を薬物治療だけでコントロールすることは困難であり、また早期に手術を行うことで改善する例もあることから、当院では積極的に手術治療を行っています。ただし、手術後も長期的に薬物治療や鼻処置を継続し、ケアしていく必要があります。