原発性肺癌

主な症状

ほとんどの場合無症状で、検診や人間ドック、他の病気で医療機関にかかっている時にレントゲン写真で偶然発見されます。しかし、なかなか治りにくい咳や胸痛、呼吸時のゼーゼー音(喘鳴:ぜんめい)、息切れ、血痰、声のかれ(嗄声:させい)、顔や首のむくみなどで発見されることもあります。レントゲンに映りにくい肺門型の肺がんは、早期から咳、痰、血痰などの症状がでることがあります。また、転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛などの骨の痛みなどが最初の症状であることもあります。また、胸痛がでることもあります。その他、肩こり、肩痛、背中の上部痛、肩から上腕にかけての痛みもまれにあります。他のがんと同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少があらわれることがあります。

解説

肺から発生したがんのことです。

肺がんは、組織学的に小細胞がんとそれ以外のがん(非小細胞がん)の2つの型に大きく分類されます。

小細胞がんは肺がんの約15~20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんですが、非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんです。ですから、外科治療の対象にはなりにくく、ごく初期の小型の症例以外は化学療法、放射線療法を行います。

非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類されます。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めています。次に多い扁平上皮がんは、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%を占めています。

治療方法

肺がんの治療方法は主に外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法の3種類です

各人の状態に基づいて必要な治療法を選択します。

  1. 外科療法
    肺がんが早期の場合に行われます。肺の患部を部分切除あるいは区域切除する場合、肺葉切除する場合、片側の肺をすべて切除する場合(肺全摘術)があり、リンパ節にがんがあるかどうかを確認するためにリンパ節切除(リンパ節郭清といいます)も行います。非小細胞がんの場合、通常はI期からIIIA期の一部が手術の対象となりますが、心臓や肺の機能障害がある場合は手術ができないこともあります。小細胞がんの場合、I期などの極めて早期の場合のみが手術の対象となります。

    がんが小さくて術前に診断がつかないような場合でも、腫瘍部分を部分切除し、術中迅速病理診断(手術時間内に組織学的に診断をつけます)をおこない、がん細胞を確認できれば根治術(区域切除以上の手術とリンパ節郭清術)を行っています。

  2. 放射線療法
    X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。非小細胞がんの場合は手術できない状態(重症の合併症があったり全身状態の悪い場合などです)のI期からIIIA期、胸水を認めないIIIB期、小細胞がんの場合は限局型が対象となります。一般的に1日1回週5回照射し、3~6週間の治療期間が必要です。小細胞がんは脳へ転移する場合が多く、脳へ転移するのを防ぐ目的で脳放射線治療が行われること(予防的全脳照射)があります。当院では放射線科に依頼して行っております。
  3. 抗がん剤による化学療法
    化学療法は抗がん剤を静脈注射、点滴静脈注射、まれに内服することにより、がん細胞を殺すことを目的とした治療法です。外科療法・放射線療法が局所治療と呼ばれているのに対し、化学療法は全身治療と呼ばれています。肺のみならず、肺の外に拡がったがん細胞にも効果が期待されます。化学療法の治療成績は、少しずつ向上してきていますが、まだまだ満足できるものではありません。小細胞がんでは、化学療法がよく効く場合が多くみられますが、非小細胞がんは抗がん剤が効きにくく、現状では抗がん剤のみでがんを治すことは不可能です。

    抗がん剤は1種類で用いる場合もありますが(単剤療法)、通常2種類以上の抗がん剤を組み合わせて用います(併用療法)。

転移性肺腫瘍

主な症状

ほとんどの場合無症状で、検診や人間ドックや、医療機関で経過観察中に発見されることがほとんどです。そのほか咳や血痰、呼吸困難などが出現することもあります。元の腫瘍によって肺への転移の仕方にある程度特徴があり、そのため症状の出方にも多少の違いがあります。肺門(肺の付け根の部分)のリンパ節に転移再発したものは、腫瘍が大きくなると比較的太い気管支に浸潤して血痰の原因になったり、気管支を閉塞して(潰して)肺炎や呼吸困難を起こしたりします。一方、肺の末梢領域(外側部分)に転移再発したものは転移の個数が相当多くならないと呼吸困難などの症状をあまり出さない傾向があります。

特殊なケースとして肺の表面近くにできた腫瘍が崩れて、崩れた部分から肺内の空気が漏れ出し気胸を発症したり、崩れた腫瘍細胞が胸腔(本来肺が拡がっている肋骨に囲まれた空間)にこぼれて、腫瘍細胞を大量に含んだ胸水(悪性胸水、あくせいきょうすい)が貯留することがあります。このような場合強い呼吸困難が起こります。

解説

肺は大量の血液が流れるフィルターのような臓器で、いろいろな臓器に発生したがんが転移し易い臓器です。ほかの臓器のがんが肺に転移してできた腫瘍を転移性肺腫瘍と呼びます。

治療方法

転移性肺腫瘍が見つかった場合、がん細胞が腫瘍部分以外にも肺の中やほかの臓器の中に潜んでいる可能性が高いと考えられます。したがって治療の原則は抗がん剤による化学療法や分子標的治療薬などによる治療となります。このような治療を行った結果として、肺にだけ数個程度の転移が残った場合にはこれを手術や放射線療法などで治療することがあります。また例外的に肺にだけ転移が出現して(他の臓器に転移が無い)、その数も3-4個程度である場合には抗癌薬などを用いずに、手術や放射線療法などのいわゆる局所治療だけを行う場合もあります。

すべてが手術の対象にはなるわけではありませんが、切除が有効と考えられる場合には積極的に手術を検討しています。

縦隔腫瘍

主な症状

ほとんどの場合無症状で、検診や人間ドック、他の病気でかかっている医療機関でレントゲン写真で偶然発見されます。しかし腫瘍が周りに拡がると、胸痛、肩痛、せき、喘鳴(「ぜんそく」のように呼吸時にゼーゼー、ひゅうひゅう音がする)、嗄声(声がかすれる)、呼吸困難、嚥下障害(ものを飲み込んだときにつかえる感じ)などが出現します。

解説

胸の中の左右両側の肺に挟まれた部分を縦隔とよびます。ここにできた腫瘍を縦隔腫瘍といい、代表的なものは胸腺腫(きょうせんしゅ)、胸腺癌、嚢腫(のうしゅ)、奇形腫、神経由来の腫瘍、リンパ腫などがあります。

治療方法

縦隔腫瘍は、縦隔にできた腫瘍の総称なので、同じ縦隔腫瘍といっても、組織の種類は異なっており、その種類によって治療法もそれぞれ異なっています。縦隔腫瘍のうち良性腫瘍では原則として手術による切除を行います。また腫瘍が早期で小さい場合は胸腔鏡手術を行う場合もあります。腫瘍ががんの場合もしくはそれに準ずる悪性度の高い腫瘍の場合、組織型により、手術、化学療法、放射線治療のいずれか、または組合せて治療を行います。

気管、気管支狭窄

主な症状

喘鳴。呼吸困難。喘息と間違えられることがあります。狭窄部分が原因で肺炎をたびたび発症することもあります。

解説

けがや病気で、気管が狭くなってしまったときに狭くなったところを切除したり、ひろげたりして治療します。

治療方法

内視鏡的に狭窄原因を取り除けるのであれば、拡張術、レーザー照射、スネアによる切離などを行います。症例によっては外科手術によって狭窄部分を切除しることもします。原因を取り除けない場合はステントを留置して狭窄部分を拡張し狭窄による症状を改善させます。

膿胸

主な症状

発熱、全身倦怠、喀痰、咳など

解説

細菌による感染で胸の中に膿が溜まる病気を膿胸(のうきょう)と言います。抗生物質の発達した今も非常に治癒しにくい病気で、専門的な知識のある医師を受診するかしないかでは治療にかかる時間も大幅に違います。

治療方法

膿を胸腔外へ排出させて(胸腔ドレナージ術)、抗生剤の点滴治療を行うことで治癒することもあります。時間がたって肺が広がりにくくなってしまったような場合や、肺に穴が開いてしまったような場合(有瘻性膿胸)は外科治療が必要となります。

自然気胸

主な症状

胸痛、急な呼吸困難

解説

肺の表面に穴が開き、空気がもれてしまう病気です。最近は主に胸腔鏡による手術が行われ、入院期間も短くなっています。自然気胸は比較的簡単なケースでは手術も難しくないので呼吸器外科のない病院でも一般の外科医が手術をすることもあるようです。順調にいけばそれでよいかもしれませんが適切な処置が受けられずに好ましい結果が得られないこともあるのでなるべく呼吸器外科のある施設で治療を受けた方がよいでしょう。

治療方法

肺の縮み具合(虚脱)が軽度の場合は経過観察で治癒します。虚脱が高度の場合は胸にチューブを入れ(胸腔ドレナージ術)空気を抜きます(脱気)。空気漏れが長く続く場合、気胸を繰り返す場合、反対側の気胸を経験している場合は外科治療を行います。