食道癌

主な症状

早期の場合、胸焼けあるいは無症状。進行すると嚥下困難、胸部の痛みなど

解説

食道癌は通常、男性で喫煙と飲酒をされる方によく起こりますが、飲酒歴のない女性にも起こります。従来、進行して発見されることが多い癌でしたが、内視鏡検査の精度が上がり早期で見つかることも多くなっています。比較的早期からリンパ節転移を来すことが多く、手術でリンパ節郭清を行う必要があります。放射線や抗癌剤治療も有効で、手術が難しい場合などには放射線化学療法をおこなうことで腫瘍のコントロールを行います。

治療方法

粘膜内の浅い層にとどまっている早期食道癌に対しては、消化器内科で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。しかし、粘膜の深層に食い込むとリンパ節転移を来すことがあるので、内視鏡下での治療のみでは治癒困難と考えられます。このような食道癌で、手術に耐えることが可能な方に対しては手術治療を中心とした治療を行います。手術法としては、最も体に負担が大きい胸部の手術を腹臥位(うつぶせ)による胸腔鏡下に行い、良好な成績をあげています。従来の胸を大きく切開して行う手術にくらべて、若干手術時間が延びますが、術後の痛みや呼吸の障害が少なくて済みます。癌がある程度進行している方については、手術前後に抗癌剤治療を組み合わせて治療を行っています。また、手術が難しい場合には、放射線治療に抗癌剤治療を組み合わせた治療を行うこともあります。

胃癌

主な症状

上腹部痛、食欲不振、体重減少など。早期癌では症状がないことも多い。

解説

近年、徐々に発生率は減少しているものの依然として日本人に多い癌の一つです。ピロリ菌の感染によって胃癌になりやすくなることが明らかにされていて、ピロリ菌の感染率の低下や、除菌治療によって今後さらに減少するものと予想されています。早期に発見して治療すればよく治る癌ですが、進行して特に転移が起こると予後は未だに不良です。近年、抗癌剤治療が発達してきて我が国で開発されたS-1やCPT-11,シスプラチン、タキサン系抗癌剤などが有効です。今後も手術と組み合わせた抗癌剤治療によって、予後の改善が期待されています。

治療方法

胃癌の治療は、2010年に改訂されたガイドラインに沿って治療方針を決めています。早期で粘膜内にとどまり、一定の基準を満たす癌に対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。その基準を超えた病変については、手術治療(胃切除術)が原則となります。ただし、ガイドライン中で臨床研究(試みとして行われている治療)とされている腹腔鏡下胃切除術ですが、当科では早期胃癌あるいはそれに準ずる進行胃癌に対して行っています。また、同様に臨床研究とされている手術前の抗癌剤治療も、手術のみでは治癒しにくいと予想される高度のリンパ節転移があるような場合に適応しています。いずれも有望な治療と考えており、今後の研究で有効性が示されるまでその成績に注目しています。手術の結果、ステージ(進行度)IIa以上と判定された方については、標準治療として術後に補助化学療法(抗癌剤治療)をお勧めしています。

2006年から2016年までに339例の胃癌の手術を行いました。そのうち58%の症例で腹腔鏡下胃切除術を行いました。胃癌手術後の5年生存率ですが、Stage I で 98.9%、Stage II で68.7%、Stage III で55.9%、Stage IVで27.3%でした。(2022年2月集計)

胆石症

主な症状

上腹部痛、右季肋部痛、吐き気、黄疸など

解説

胆石とは、胆嚢あるいは胆管など胆汁の通り道に結石(石)ができて、その流れを滞らせたり菌の増殖を招いたりするために、炎症や黄疸を起こす病気です。よくある疾患ですが、炎症や黄疸の程度によっては命にかかわることもあり、軽くみてはいけません。胆石があっても無症状のことも多いのですが、胆石発作という強い腹痛を生じることがあります。みぞおちが痛むことから、胃が悪いと勘違いしている人も少なくありません。重症になると急性胆嚢炎や、閉塞性胆管炎という状態となり、胆嚢が壊死に陥ったり体中に菌が回ったりするために、緊急で治療を行わなくてはなりません。なお、腎臓に石が生じて、尿に排出される尿路結石とは全く異なる病気です。

治療方法

胆嚢結石は検診で発見される場合のような無症状の場合には経過観察となります。しかし、一旦炎症を生じた胆嚢は何度も発作を繰り返すことが多く、また自然に治ることはないため、手術で取り除く必要があります。胆嚢を取り除いても、若干便通がよくなる以外にあまり大きな障害は残らないとされています。多くの場合、腹腔鏡下胆嚢摘出術は3〜4ヶ所の小さい傷で手術を行い、通常の経過では術後4〜5日で退院できます。なお、総胆管に結石がある場合は、消化器内科で内視鏡的に結石除去を行います。

大腸癌

主な症状

便秘、血便、腹痛、腹部のしこり

解説

近年、増加してきている癌の代表格で、食生活の欧米化や肥満、運動不足なども危険因子とされます。早期ではやはり無症状ですが、検診の便潜血検査が陽性の場合に大腸ファイバー検査を行なって発見されることがあります。進行してくると便の通過が悪くなり、また便に血液が付着することも多くなります。更に進行すると、腹痛と共に便が出なくなるいわゆる腸閉塞や、出血が多くなって血液が薄くなる(貧血)等の強い症状をきたします。進行して、肝臓・肺や腹膜に転移すると、治癒が難しくなり、抗癌剤治療などが必要となります。

治療方法

大腸癌に対する治療方針は、大腸癌治療ガイドラインに沿って決めています。ポリープ状の早期がんに対しては、内視鏡的切除(EMR)を行い根治可能です。内視鏡敵治療が困難であったり、より進行している場合には腸切除を伴う手術治療が基本です。当科では、原則的に大腸癌の切除手術を腹腔鏡下で行っています。大腸癌の場合、腹腔鏡下手術でも開腹とほぼ同等の手術ができます。また、カメラが近接することによって細かいところが見やすくなり、より精密な手術ができると考えています。
2006年から2016年までに598例の大腸癌手術を行いました。そのうち481例(82%)に腹腔鏡手術を行っております。結腸癌の5年生存率ですが、術後病期0期100%, I期 100%, II期 95.5%, IIIa期 100%, IIIb期 70.4%, IV期 25.5% で、直腸癌の5年生存率は、術後病期0期 100%, I期 100%, II期 81.8%, IIIa期 87.5%, IIIb期 73.7%, IV期 39.1% でした。(2021年12月最終更新)
また、肝臓に転移している症例にも積極的に肝臓切除を行っています。現在までに51例に肝臓切除を行いましたが5年生存率は61.0%です。(2021年12月最終更新)

急性虫垂炎

主な症状

上腹部痛から右下腹部痛、吐き気など

解説

大腸の付属物である、虫垂が炎症を起こして膿をためる疾患です。典型的には右の下腹が痛みますが、痛みの場所がはっきりしなかったり、吐き気だけが症状のこともあり注意が必要です。軽症では抗生物質だけで治りますが、炎症が強い場合には手術が必要となります。重症例では、膿が腹部全体に広がって腹膜炎となるか局所に膿だまり(膿瘍といいます)作って、命に関わることもあります。

治療方法

虫垂炎で炎症が強い場合、手術をお勧めしています。当院では、原則的に全身麻酔で腹腔鏡下に虫垂切除を行っています。このやり方は、全身麻酔のため体の状態が安定していること、腹腔鏡は腹部全体の様子がわかり安全に手術が行われること、膿が腹部全体に回っていても十分に洗浄できること、傷が小さく目立たないことなど多くの利点があります。ただし、腹部の手術を受けたことのある方には適応できないこともあります。

膵臓癌

主な症状

進行するまでは無症状。進行してくると、背部痛、黄疸、体重減少、糖尿病の悪化

解説

日本では5番目に多い癌ですが、近年やはり増加傾向にあります。膵臓とは、胃の裏側にあって十二指腸とつながっており、膵液と呼ばれる非常に強い消化液を分泌する働きと、ホルモンを分泌する内分泌の2つの働きを持っています。膵臓で放出されるホルモンの代表的なものがインスリンであり、インスリンが不足すると糖尿病になります。この膵臓から発生する膵臓癌ですが、早期発見が困難なこと、進行が早く完全に切除できることが少ないことなどから、未だに治りにくい代表的な癌のひとつです。最近の進歩としては、新規抗癌剤として、ジェムザールとS-1が登場し、予後が改善してきたことがあります。また、膵炎や糖尿病など膵臓癌にかかる危険性の高い人について、定期的な検診をすることによって、比較的早期に発見される可能性が指摘されています。

治療方法

完全切除が可能な状態であれば、外科的切除が第一選択です。腫瘍の部位と広がりによって、膵頭十二指腸切除術、膵体尾切除術、膵全摘などの術式があります。十二指腸に近い側に腫瘍ができた場合には、十二指腸、胆管、胃の下部などとともに膵頭部を切除して胆管、膵管、胃などをつなぎ直します(膵頭十二指腸切除術)。これに対し、十二指腸から遠い側では、膵臓の尻尾側と脾臓を切除しますが、特につなぎ直す必要はありません(膵体尾切除術)。膵全摘は膵機能が廃絶するため、術後に高度の糖尿病をきたして日常生活に支障が大きく、あまり行われることはありません。手術後には再発することが多いので、ジェムザールなどを用いて術後補助化学療法を行うことが薦められています。また、術後にインスリン分泌が不足して糖尿病になることがあり、定期的なチェックや治療が大切です。

肝癌

主な症状

進行すると、腹部膨満、腹痛、腹部のしこり

解説

肝臓にできるがんには様々なものがありますが、大きく分けて肝臓そのものからできる肝細胞癌や胆管細胞癌と、他の部位の癌(例えば大腸癌や胃癌)などが肝臓に転移することによる転移性肝癌の二通りがあります。一般に肝癌といえば、肝細胞癌のことを言います。肝細胞癌の多くは、慢性肝炎(ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝)を背景として生じることが多く、肝障害が進むにつれて多発する傾向があります。したがって、他のがんと異なって長い経過のなかで治療の計画を立てなくてはなりません。

治療方法

2cm以下の小さい病変に対しては、体に負担の少ないラジオ波焼灼術(RFA)で処置できますが、1〜3個以内で肝機能が良好であれば、手術治療がもっとも成績が良いとされています。肝切除法には、一部のみを切除する肝部分切除術、血管の分布にそって更に大きく切除する区域切除術、2分の1程度を切除する葉切除術、更にそれ以上を切除する拡大手術まであり、肝障害の程度と腫瘍の位置・大きさなどに応じて、個々の患者さんにあわせてオーダーメードのように決めていきます。肝機能が不良な場合は、できるだけ肝臓に負担がかからないように小さく切り取るか、RFAや血管塞栓、動脈内抗癌剤治療などで治療します。肝炎などの治療と平行して癌を診ていく必要があるので、消化器内科と共同して治療を行なっていきます。なお、肝機能不良例で腫瘍の状態が一定の基準を満たす場合、肝移植が適応となることがあります。肝移植のご相談があれば、京都大学肝胆膵・移植外科にご紹介いたします。

鼠径ヘルニア

主な症状

太股の付け根が膨らむ、痛む

解説

ヘルニアとは、内蔵や体の一部が本来の場所から隙間を通ってはみ出してくる状態のことを言います。このため、様々な部位でいろいろと異なるヘルニアがあり混乱しやすいのですが、ここでは太股の付け根(鼠径部)におこるヘルニアについてお話しします。鼠径ヘルニアは、鼠径部の腹壁の弱い部分から、腸をはじめとする腹部の臓器がはみだしてくる病気です。弱くなっている腹壁の部位によって、内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアなどに分けられます。内・外鼠径ヘルニアは男性に多く、大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは痩せた高齢女性に多い疾患です。長時間立っていたり、腹圧をかけたりするたびに膨らみが出たりしますが、横になって手で抑えこむと元通りすっきりします。出入りしているだけであれば単なる不愉快病ですが、脱出した腸管がはまり込んで抜けなくなり(嵌頓とよびます)腸の壊死をきたすと、命に関わることもあります。

治療方法

腹圧をかけるたびに、ヘルニアはゆっくりと増大していきます。薬物治療やヘルニア帯は全く無効ですので、手術が必要です。予定手術の場合、鎮静剤を使いながら局所麻酔下に行っています。ヘルニア嚢と呼ばれる、はみだした腸が収まる袋状の膜を切り取って出入り口を塞いだ後に、合成繊維でできたメッシュをあてて補強します。メッシュを使用するようになってから、再発が非常に少なくなりました。両側に発生しているものや、何回か再発しているものについては、全身麻酔下に腹腔鏡下手術を行うこともあります。なお、嵌頓を起こしている場合には、腸の壊死が起こりうるので全身麻酔下に緊急手術を行います。

神経内分泌腫瘍

主な症状

腹痛、冷や汗、意識障害、難治性潰瘍、下痢など

解説

神経内分泌腫瘍(NET)は全身のあらゆる臓器からできる比較的まれな病気です。そのうち、当科では胃や腸、膵臓など消化器からできる消化器NETの診療を行っています。NETはホルモンを作る細胞からできますが、過剰分泌されるホルモンによる症状を伴う機能性NETとホルモン症状を伴わない非機能性NETに分けられます。低血糖を起こすインスリノーマや、難治性潰瘍の原因となるガストリノーマは機能性NETに分類されます。腫瘍が小さくてもホルモンによる強い症状が出る場合があります。悪性度の低い腫瘍のこともありますが、悪性腫瘍(がん)としての性質を持っていることもあります。また、多くはないのですが遺伝性疾患の一部として発症している場合もあるなど多彩な病態を示す病気です。

治療方法

基本的に治療は手術または内視鏡による切除が必要です。腫瘍のできる場所や大きさに応じた手術方法の選択が必要になります。また、悪性の場合で転移がある場合にはその性質(悪性度)や広がりに応じて抗がん剤、放射線治療、動脈塞栓術、ラジオ波焼灼術、手術などを組み合わせた集学的治療を行います。遺伝性NETの場合は遺伝性でない場合と性質が異なります。NETは正確な診断とその性質に応じた慎重な治療法の選択が必要です。

内痔核

主な症状

出血、疼痛、脱出、腫脹、瘙痒感、粘液漏出

解説

痔核には直腸側にできる内痔核と、肛門側にできる外痔核があります。肛門の少し奥には血管の豊富なクッションのような部分があります。肛門への負担が重なると、その血管が太く蛇行するようになります。これを内痔核(いぼ痔)と呼びます。徐々にうっ血が強くなると出血を起こすようになります。さらに放置した場合、内痔核は大きくなり、肛門の外へ脱出するようになります。

治療方法

内痔核は良性疾患であり、治療を行う際は過度の侵襲は避けるべきというのが基本的な考え方です。治療の基本は外用薬と生活指導を中心とした保存療法ですが、出血や脱出を伴った場合は外科治療の適応と考えられます。当院では、出血や脱出を繰り返す場合は主に硬化療法を、外痔核を伴って脱出する場合は手術療法を行っています。硬化療法では安心して治療を受けていただき、仕事への負担ができるだけ少なくなるようにジオン注射(ALTA療法)を用いた1泊2日の短期入院による治療を行っています。この方法では痔に流れ込む血流を遮断し速やかに止血効果を発揮するだけでなく、内痔核を硬化退縮させ脱出症状を消失させます。