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*写真、イラスト提供:ノバルティスファーマ(PDT手帳)

加齢黄斑変性症

黄斑とは(図1、2)

角膜(かくまく)を通過して眼内に入った光の情報は、瞳孔(どうこう)から、水晶体(すいしょうたい)、硝子体(しょうしたい)を通って網膜(もうまく)に届きます。その情報は視神経(ししんけい)を経由して脳に伝えられ、映像として認識されます。眼をカメラに例えますと、網膜はフィルムにあたります。網膜の中心である黄斑(おうはん)には、視力をつかさどる重要な細胞が集中しています。さらに黄斑の中心部は中心窩(ちゅうしんか)といい、網膜の感度が最も高く、文字などはここで見ています。この中心窩に異常があると視力の低下が深刻になります。


図1 眼球


図2 眼底網膜の黄斑、中心窩

加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)

加齢黄斑変性症は、黄斑部の機能が老化により障害される病気です。欧米では中途失明の一番多い原因です。日本では、以前は比較的珍しい病気でしたが、近年増加の一途を辿っています。脈絡膜(みゃくらくまく)から発生する新生血管の有無で「萎縮(いしゅく)型」、「滲出(しんしゅつ)型」に分けられます。

萎縮型加齢黄斑変性症は日本人には少ない病型です。出血は伴わず、「ドライタイプ」とも呼ばれます。網膜の細胞が加齢により変性し、老廃物が蓄積して栄養不足に陥り、徐々に萎縮していきます。進行は緩序ですが、有効な治療法もありません。

滲出型加齢黄斑変性症(図3、4)は「ウェットタイプ」とも呼ばれ、網膜の下にある脈絡膜に新生血管が生じ、黄斑部に出血、網膜剥離、浮腫などが出現します。進行が速く、急激に視力が低下していきます。光線力学療法はこのタイプの治療として行われます。


図3 眼底写真


図4 蛍光眼底造影写真

中心窩に病変が及んでいない時には、変視症や暗点は自覚しても、視力は比較的良好です。しかし、病変が中心窩に及ぶと視力は大きく低下し、読み書きができなくなるかもしれません。ただ中心以外の周辺の視野は保たれますので、どんなに進行しても、まったく失明して真っ暗になることはありません。

「滲出型」加齢黄斑変性症の自覚症状

加齢黄斑変性は網膜の中心部である黄斑がいたむのが原因なので、ものを見ようとしたときにその中心部が最も影響を受けます。進行とともに物がゆがんで見えたり、大きさが違って見えたり、字が読みにくくなったりします。

  • 変視症(へんししょう、図6):見たい部分がゆがんでみえます
  • 視力低下:全体的にものがぼやけます
  • 中心暗点(ちゅうしんあんてん、図7):見たい部分が黒くなって見えます


図5 正常な見え方


図6 変視症


図7 中心暗点

自己チェック


図8 アムスラーチャート

障子の桟(さん)や窓の格子など四角のものをみてみましょう。普段両方の目を使って見ていますと、片方の目が見にくくなっても気がつかないことが往々にしてありますので、時々片目ずつで物を見てみましょう。眼科ではアムスラーチャートと呼ばれる格子状の表を用いて、見え方の異常を確認します(図8)。

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加齢黄斑変性症の検査

  • 視力検査
    視力表を用いて検査します。
  • 眼底検査(図9)
    器具を用いて観察したり、写真を撮って、眼底にある網膜の状態を調べます。
  • 蛍光眼底造影検査(けいこうがんていぞうえい、図10)
    蛍光色素を腕の静脈に注射し、眼底カメラで眼底の血管の異常を検査します。
  • 網膜断層撮影検査(もうまくだんそうさつえい、図11)
    OCT3000を用いて、網膜と新生血管の状態を確認します。


図9 眼底検査


図10 蛍光眼底造影検査


図11 網膜断層撮影検査


図12 加齢黄斑変性症

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加齢黄斑変性症の治療

滲出型加齢黄斑変性症の治療目標は、原因である黄斑部の新生血管をつぶして中心窩を守り、視力を維持することです。新生血管が中心窩から離れている場合はレーザー光凝固を行います。中心窩が守られれば視力は維持できる可能性があります。しかし、中心窩下に新生血管が及んでいる場合は、レーザーで凝固してしまうと中心窩が傷ついてしまうので、新生血管抜去術、黄斑移動術、経瞳孔温熱療法、放射線療法、栄養血管凝固、ステロイド注射などの他の治療法がおこなわれてきましたが、これらの治療の適応となる患者さんの数は限られており、結果も決して満足のいくものではありませんでした。

レーザー光凝固術(ひかりぎょうこじゅつ)


図13  レーザー光凝固術

新生血管をレーザーで焼き固める治療法。正常な周囲組織にもダメージを与えてしまうので、新生血管が中心窩にある場合は、最近ではほとんど実施されません。

新生血管抜去術(しんせいけっかんばっきょじゅつ)


図14  新生血管抜去術

新生血管を硝子体(しょうしたい)手術により取り去る方法です。症例によっては手術にともない中心窩が痛んでしまう危険性があります。

黄斑移動術(おうはんいどうじゅつ)


図15  黄斑移動術

中心窩の網膜を硝子体手術により、新生血管から離れた場所に移動させてしまう方法です。新生血管が中心窩にある場合に行われますが、術後にものがふたつに見えるなどの副作用がでることがあります。

経瞳孔温熱療法(けいどうこうおんねつりょうほう)


図16  経瞳孔温熱療法

新生血管に弱いレーザーを照射し、軽度の温度上昇により新生血管の活動性を低下させます。

その他の治療法

内服薬(出血予防のための止血薬、網膜や血管に栄養を与えるためのビタミン薬など)
放射線療法
栄養血管凝固
ステロイド注射

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光線力学的療法(PDT)とは

レーザー光凝固術(ひかりぎょうこじゅつ)


図17 光線力学的療法(PDT)

光線力学的療法(PDT)は、光に反応する薬剤(ビスダイン)を静脈注射で体内に投与した後に、病変部に弱いレーザー光線を照射するという2段階で構成される治療法です。ビスダインを注射すると、ビスダインの成分であるベルテポルフィンは治療の目標である脈絡膜新生血管に集まります。その頃合いを見計らって網膜に障害をきたさない程度の弱いレーザー光線を当てます。

すると、ベルテポルフィンが作用し、活性酸素を発生させ、新生血管に障害を与えて血管を閉じさせます。ベルテポルフィンは新生血管に集まるので、正常組織への障害は少なく、新生血管のみを治療できることになります(図17)。

光線力学的療法(PDT)による加齢黄斑変性症治療

加齢黄斑変性症によって生じる新生血管は、視力を急に低下させる危険があり、治療をせずに放置した場合、字が読めないなどの「社会的失明」につながる可能性があります。中心窩下に病変が及ぶ滲出性加齢黄斑変性症の新しい治療として光線力学的療法(PDT)があります。この治療は、加齢黄斑変性症によって発生した新生血管の進展を遅らせる、あるいは退縮させることが可能で、視力の維持または視力の改善(約5人に1人)が期待できます。ただし、根治療法ではなく継続的に行う治療法です。最初の治療で閉じた血管は再び開いてしまうことがありますので、3ヶ月ごとに視力検査、眼底検査、蛍光眼底造影検査などをおこない、必要があればその都度再治療を行います。日本での臨床試験では一年間で平均すると2.8回の治療が行われました。また、病変が大きすぎたり、病変の位置によっては治療できないことがあります。

光線力学的療法(PDT)は、加齢黄斑変性症の治療として海外70カ国以上で実施されており、本邦でも2003年5月に認可されました。欧米での臨床試験の結果では、この治療を行った患者さんのほうが、行わない患者さんと比べて視力低下の程度が少ないことが証明されました。また日本の臨床試験では、欧米での成績より、日本人の視力経過の方が良いことがわかっています。ただ、全ての方に有効なわけではなく、すでに黄斑部の網膜の機能が不良となっている場合には、視力の改善は難しいと考えられます。また、薬剤は全身にも循環しますので、注射後一定期間は直射日光などの強い光に当たると、皮膚にやけどの様な副作用が生じることがあります。しかし、薬剤は強い光に当たらなければ害はありません。ただ治療後48時間は直射日光や強い光に当たってはいけませんので、初回治療の場合は2-3泊の入院が義務づけられています。退院後も治療後5日間、直射日光はできるだけ避けていただく必要があります。費用は1回の治療で3割負担の場合、約13から15万円かかります。

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光線力学的療法(PDT)の手順、注意

  1. 前日まで

    • 視力、眼底所見、蛍光眼底造影所見などから適応を判断します。
    • 日取りを決めて入院していただきます。
    • 指示がない限り、いつも通り薬を飲んでください。
    • 退院時や一時外出時に強い光から皮膚や眼を保護するために、サングラス、手袋、ツバ付の帽子、長袖のシャツ、長ズボン(スカートは不可)の準備が必要です。入院時に持参していただきます。
  2. 治療の実際

    1. 散瞳剤点眼にて瞳を開きます。
    2. 薬剤(ビスダイン)を10分かけて静脈に注射します。
    3. 注射終了後、眼に点眼の麻酔薬をさします。
    4. 特別なコンタクトレンズを装着し、注射開始15分後(薬剤が新生血管に集まった頃)に弱いレーザー光を83秒間照射します。まぶしさはほとんど感じません。痛みもありません。
    5. 治療は座位にて行い、静脈注射からレーザー治療終了までの治療時間は約20分です。
  3. 術後の注意点

    直射日光、強い室内光を避けるため、治療後最低48時間は院内でお過ごしいただき、副作用などを監視します。ただし、暗闇にとどまる必要はなく、室内の蛍光灯の明かりなどはむしろ積極的に浴びたほうがphoto bleaching効果で、体内の光感受性物質がより早く代謝します。テレビを見るのも問題ありません。ただ治療後5日目までは、歯科や外科手術で使われるような強い照明を浴びないようにし、外出時はサングラス、帽子、手袋などをつけていただきます。食事等に制限はなく、指示がない限りいつも通り薬は飲んでください。洗眼、入浴等にも制限はありません。なお、眼科の通常診察は術後48時間はできません。

    治療3か月後に再度眼底造影検査をします。新生血管が残っていれば、再度治療を行います。残っていなければ、治療は行いません。2度目以降の治療は通院でも可能です。

  4. 起こりうる副作用

    薬剤の投与に関連する痛み(頭痛や背部痛)、治療した眼に起こりうる視力低下などの視覚障害、軽度の循環器系の障害、また海外では、光過敏性反応、注射部での副作用などの報告があります。

    詳しくは担当の医師に確認してください。