循環器市民講座を開催しました
1月25日(土)14:30~関西電力病院3階講堂において循環器市民講座を開催しました。約130名もの皆様にご参加いただき、会場は満席となりました。
【循環器内科(不整脈外来)早野 護】
当院循環器内科不整脈外来の早野護先生からは、高齢化にともない日本で非常に増えている心房細動について説明いたしました。
心房細動とは心房と呼ばれる心臓内の部屋が小刻みに震えて痙攣し、うまく働かなくなってしまう心臓の病気(不整脈の一種)で動悸、めまい、脱力感、胸の不快感、息苦しさといった症状が出ることがありますが、その一方で自覚症状のない方も多くおられます。そして心房細動では血液が滞留しがちになり、心房内で「血栓」(血のかたまり)が形成されることがあり、血栓が血管を通って脳まで運ばれて脳の血管につまると、「心原性脳梗塞」と呼ばれる脳梗塞を起こしてしまいます。
治療には心拍数を調整する「レートコントロール」や、心拍数が規則正しくなるようにする「リズムコントロール」などを行います。また、血栓を予防するために抗凝固薬が処方されることもあります。カテーテルアブレーション治療とは、心房細動の原因となっている異常な電気信号を取り除く治療法で、心房細動の根本的な治療(根治術)として、現在一般的に行われているものです。当院でも高い成功率と安全性で施行しております。
【心臓血管外科部長 末永 悦郎】
心臓血管外科部長の末永悦郎先生からは、同じく高齢化に伴い増えている心臓弁膜症(大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症)について症状と診断法、最新の心臓外科手術である小切開術(小さい傷で手術する)について説明いたしました。
心臓弁膜症は、心臓の弁が何らかの原因によって機能が低下する病気の総称です。弁の閉じ方が不完全になる”閉鎖不全症”、石灰化などにより弁が固く開かなくなり、血流が妨げられる”狭窄症”があります。
息切れは弁膜症の重要な症状です。胸痛や失神なども危険信号です。最初は運動するときに息切れが起こったり疲れやすくなる程度ですが、病気が進行すると安静時たとえば横になったり寝るときにも息苦しくなります。こうしたレベルになると危険な状態ですので直ちにご相談ください。診断には心エコー法が非常に有効で、どの弁がどうなっているか、左室右室の大きさと動きなどがすぐわかります。この検査は痛みも苦痛もほとんどなく、副作用もありません。しかも情報量が多いので極めて有益な検査です。当院循環器内科は心エコー法の研究で世界的に有名な施設です。小切開術は胸を大きく切り開く必要がないため、大きな傷跡が残らず、早期退院・社会復帰が可能です。無輸血または少ない輸血量で済みます。末永部長はこの方法のスペシャリストです。
特別講演の天野惠子先生からは、まず性差医療の歴史が紹介されました。性差医療とは、男女の様々な差異に基づき発生する疾患や病態の違いを念頭において行う医療であり、日本は欧米にくらべ約10年ほど立ち遅れていたましたが、1999年に第45回日本心臓病学会にてシンポジウム「日本女性における虚血性心疾患」が企画され、天野先生により初めてGender-Specific Medicineの概念が紹介されました。
【特別講演 天野 惠子 先生】
2004年には天野先生が代表世話人になられて「性差医療・性差医学研究会」が設立され、2008年に「日本性差医学・医療学会」が設立され、現在でも日本における性差医療をリードされています。このような先生のご活躍により2010年には日本循環器学会から「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」が発表され、臨床現場において役立っています。また2015年12月には内閣府男女共同参画社会基本法(第4次男女共同参画基本計画)に基づき科学技術・学術における男女共同参画の推進が明記されました。
ご講演では、虚血性心疾患における女性の罹患率は男性の1/3~1/5と低いものの心筋梗塞後の死亡率は高いこと、年齢も血中エストロゲンレベルが低下する閉経後に男性より8~10年程度おくれて高齢での発症となるや、昨今急激に増加している心不全においても女性では左室収縮能の保持された心不全が多いことも紹介されました。また“超高齢社会の到来”という項目では前千葉県知事、堂本暁子氏と天野先生との共同研究によるビッグデータから多くの疾患や高脂血症における性差の実状をお示しいただきました。
“超高齢化社会と認知症・リスクの征圧で認知症は防げるのか?”の項目では男性では脳血管性認知症が多いのに比べ女性ではアルツハイマー型認知症が多く、これからは男性が女性の介護をする時代になると予想されていました。その中で和温療法研究所所長、獨協医科大学特任教授の鄭 忠和先生が開発された和温療法が心不全、認知症、慢性疲労性症候群、閉塞性下肢動脈硬化症、変性性神経疾患など多くの難病に有効であることをお示しされました。実際の患者さまが和温療法で良くなっていくビデオは圧巻で多くの参加者の方々から驚きと賞賛を得ることができました。
今回の天野先生の市民講座が多くの患者さまや人々の共感をえて、日常診療において性差医療や和温療法が広く貢献ができるようになること、そして天野惠子先生の益々のご活躍を願っております。