食道がん

主な症状

早期がんは全く無症状です。進行するとのどや胸がしみる感じや、食物がつかえる感じが出ることがあります。声のかすれや「むせ」も進行がんの症状です。さらに進行すれば食事が全く通過しなくなります。また癌の潰瘍が気管とトンネルを作って咳が止まらなくなったり肺炎になったりすることがあります。

解説

食道がんとは

食道は、咽頭と胃の間をつなぐ管状の臓器で食物を胃に送る働きをしています。食道の上皮は扁平(へんぺい)上皮でできており、日本の食道がんの90%以上がこの扁平上皮から発生する扁平上皮癌ですが、欧米では胃酸逆流に起因する胃がんと同じ腺上皮からなる腺癌が増加しており、現在では半数以上が腺癌です。生活習慣・食生活の欧米化により今後わが国でも腺癌の増加が予想されています。扁平上皮癌と腺癌は性格が異なり注意が必要です。

食道がんの発生要因

食道がんについては、扁平上皮癌では喫煙とアルコール摂取が危険因子とされています。またアルコールを飲むとすぐ赤くなる、いわゆるアルコール・フラッシャーの方ではさらにリスクが増大します。食道がんはリスク要因が共通の咽頭癌や口腔癌、喉頭癌と合併する可能性が高いことが知られています。近年欧米で急増している腺癌は食道-胃接合部に多く胃-食道酸逆流症(GERD)が危険因子です。

診断

一般にバリウム造影検査や内視鏡検査で診断しますが、早期がんの診断はほとんどが内視鏡によるものです。がんの広がりや深さを見るためにCT、MRI、超音波内視鏡検査などを行います。

内視鏡検査は病変を直接観察でき、発見のみならず病巣の広がりや深さを判断するのに役立ちます。ルゴール染色や特殊光(NBIなど)で広がりを、超音波内視鏡にて深達度を、生検にて組織による病理診断を行います。初期の食道がんを見つけるためには内視鏡検査は極めて有用であり、最近開発された拡大内視鏡を用いれば2-3mmの食道がんが診断可能な場合も出てきました。

治療方法

がんの進展度と全身状態からガイドラインに沿って治療法を選択します

食道がんの標準的な治療には

  • 内視鏡治療
  • 外科的手術
  • 放射線化学療法(放射線療法+抗がん剤治療)

があります。

進行がんでは、外科治療・放射線療法・化学療法・ステントなどの内視鏡治療などを組み合わせた集学的治療も行われます。

ここでは内科的に行う治療を説明します。

ESD

食道壁の粘膜下層までにとどまる「表在型」のがんのうち、粘膜層にとどまりリンパ節転移のない食道がんを早期食道がんと定義しています。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、この粘膜にとどまったがんを内視鏡で食道の内側から切り取る治療法です。治療の適応に関しては日本癌治療学会の食道がん診断・治療ガイドラインをご参照下さい。治療後は傷が治れば治療前と同様の生活ができます。ただし粘膜を広範囲に(2/3周程度)切り取った場合には治療痕がひきつれ食道が狭くなる場合があります。この場合、内視鏡を用いてバルーン拡張術(内腔を広げる治療)を行うことができます。切除した組織による顕微鏡検査の結果で追加の外科手術や放射線治療・化学療法が必要になることがあります。

ステント治療

食道進行がんによる食道狭窄で食事摂取が困難な場合に、内視鏡を用いて形状記憶合金の網でできた筒(金属ステントと言います)を食道に留置して狭窄部位を広げ食物が摂取できるようにする治療です。

逆流性食道炎

主な症状

食後または空腹時、夜間に胸がやける、酸っぱいものがあがる、苦いものが上がるなどの症状が出ます。ものが飲み込みにくい、飲み込むときに胸につかえることもあります。胸だけでなくのどに違和感やつかえ感を覚えたり、不快なゲップを頻回に感じるケースも多いです。ひどくなると1日中胸部~みぞおちに疼痛を感じる場合もあります。

解説

胃の入り口=噴門の筋肉(括約筋)がゆるい、噴門を外から取り巻く横隔膜裂孔が広すぎる、胃酸過多や食べ過ぎ・飲み過ぎなどが原因です。強い逆流性食道炎を放置すると酸逆流による食道がん(バレット腺癌)のリスクが増加します。

治療方法

アルコール・香辛料などの刺激物・脂っこい食物を避ける、枕を高くして寝たりベッドをリクライニングする、前かがみで坐る姿勢を長く続けない、腹部・腰部を強く締め付けない..など生活の注意で症状が軽くなることが多いです。

胃酸の分泌を抑える薬で大抵は症状が改善します。症状が全くとれないことは稀ですが、難治性の場合は外科的治療(Nissen手術など)もあります。

胃癌

主な症状

早期がんでは症状はほとんどといっていいほどありません。進行がんでは胃が重い、食物がつかえるなどの症状がでることがあります。がんから出血による黒色便や、貧血が進行して動悸・息切れなどて発見されることもあります。さらに進行すれば食事の通過障害による嘔吐や、全身倦怠感・体重減少などの症状が現れます。

解説

胃がんは胃の粘膜細胞ががん化したものです。原因は100%は判かっていませんが近年ヘリコバクター・ピロリ菌の関連がクローズアップされています。胃がんは内視鏡検査や胃X線検査で診断されることがほとんどです。特に内視鏡検査はその存在診断だけでなく生検による病理診断や、拡大・特殊光内視鏡などにる範囲診断、超音波内視鏡による深達度診断も可能で、ほとんどの場合診断の決め手になります。さらに全身への胃がんの広がり・転移を調べる検査としては、腹部超音波、CT、MRIなどがあります。

がんの深さが粘膜下層までに留まるものを「早期胃がん」、固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。

治療方法

胃がんの治療は、病期・部位・組織にもとづいて治療法が細かく決められています

病期の軽いものから以下のような治療をします。

  • 内視鏡治療(ESD・EMR)
  • 外科的手術(腹腔鏡下手術を含む)
  • 化学療法(抗がん剤治療)
内視鏡治療

早期胃癌で深達度が浅く、リンパ節に転移している可能性がほとんどないと考えられる場合には内視鏡による切除治療が行われます。最近では病変とその周辺の粘膜を一括で粘膜下層から切り離す内視鏡的粘膜下層剥離法(ESD; Endoscopic Submucosal Dissection)が可能になり、その正確性から内視鏡治療の主流となりました。内視鏡で切除した標本を詳しく顕微鏡で調べて治療が十分かどうかを確認します。治療基準に照らし合わせた上、深達度や切除断端評価により治療が不十分と判定された場合は手術など追加治療が必要になります。

胃・十二指腸潰瘍

主な症状

最初は主に空腹時や夜間にみぞおちに鈍い重苦しい痛みが出ることが多いですが、時に胃潰瘍では食後や食事と無関係に痛みが出ることもあったり、潰瘍が深いと背中まで痛むこともあります。潰瘍から出血すると黒い血のかたまりやコーヒー色の吐物(コーヒー残渣様)を吐いたり、コールタールやイカ墨のような真っ黒の便が出たりします。出血量が多いと立ち眩みやフラフラするなどの症状が出ます。さらに出血が多ければ吐血やショック症状が見られることもあります。潰瘍が深くなり過ぎれば穿孔(穴が開くこと)し急激な腹痛を訴え腹膜炎の症状を呈します。

解説

胃酸の過剰、ピロリ菌感染、ストレス、消化酵素(膵液・胆汁など)、胃壁の血流や薬物の副作用等が複雑に関連しています。特に鎮痛剤(痛み止め)、ステロイド剤などの薬が直接の原因になることもあります。

我が国の潰瘍患者の90%以上がピロリ菌に感染していると言われ、ピロリ菌の除菌により潰瘍の再発が劇的に抑制できる事がわかっています。

ピロリ菌感染と慢性萎縮性胃炎の合併は胃がんのハイリスクである事が分かり問題になっており、積極的な除菌治療の対象となっています。

治療方法

近年は薬物療法の発達により、ほとんどの胃潰瘍・十二指腸潰瘍はプロトンポンプ抑制剤やH2ブロッカーなどの制酸剤とピロリ菌の除菌により治療可能となってきました。

潰瘍からの出血もほとんどのケースが内視鏡を用いて止血する事が可能です。出血がない潰瘍の治療は飲み薬が主体です。現在では良性の胃・十二指腸潰瘍で手術が必要な事はまれですが、時に出血スピードや量が多ければ緊急血管造影による止血術や、手術の対象となることがあります。

潰瘍が穿孔すれば手術の適応になることがあります。以前は患部を切除する方法が主体でしたが、現在では穿孔部位のみ腹膜を外から縫い付けてふさぐ、腹膜充填法が主となっています。

A型肝炎

主な症状

ウイルスに感染後2~7週間で発症します。典型的な症状は発熱、全身のだるさ、むかつき、食欲不振で、頭痛、関節痛などが伴うことがあり、風邪やインフルエンザ様の症状です。発症後約1週間前後で黄疸が出現します。まれに劇症化して死亡する例を除き、1~2カ月の経過の後に回復します。慢性化はありません。

解説

原因

A型肝炎ウイルスは患者の便に排出され、この便に汚染された水・果物・野菜・貝類・氷などを介して感染します(糞口感染)。日本ではカキ、二枚貝の生食などが原因になることが多いようです。また中国、インド、東南アジアやアフリカなどに旅行して感染することもあります。季節的に1~5月に多く発症します。

衛生環境の整っていない地域では生水は決して飲まず、生の魚介類は食べないようにしてください。アフリカ、アジア、中南米への渡航者にはA型肝炎の予防接種が勧められており、16歳以上の人が受けることができます。

経過

まれに劇症化して死亡する例を除き、1~2カ月の経過の後に回復します。慢性化はありません。

治療方法

まず自然治癒を高める安静臥床が必要です。特別な薬はなく、肝庇護剤を使うことがあります。

B型肝炎

主な症状

B型肝炎は、成人がHBVに感染したときに一過性に発症する急性肝炎とHBVの持続感染者に起きる慢性肝炎の2つに大きく分けられます。

B型急性肝炎は感染後1~6ヶ月位で発症します。全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などが出現します。一方B型慢性肝炎では症状はほとんどありませんが、慢性肝炎が急性増悪した場合は、急性肝炎と同様の症状を認めることがあります。

解説

原因

B型肝炎ウイルス(HBV)陽性の体液・血液を介して感染し、感染時期や感染時の抵抗力によって持続感染や一過性感染を起こします。

出産時の母子感染か,乳幼児期の医療行為など何らかの理由でHBV感染者の血液・体液が体内に侵入すると、持続感染を起こします。

思春期以降にB型肝炎ウイルス(HBV)に感染すると、多くの場合一過性感染で終わります。感染原因のほとんどはHBV持続感染者との性交渉ですが、他に入れ墨,ピアスの穴あけ、かみそりや歯ブラシの共用、注射器の回し打ちなどHBV陽性の血液が付着したままの器具を使用すると一過性感染を起こします。一過性感染の場合、感染後急性肝炎を起こすことがしばしばあります。最近思春期以後の感染でも、HBVの外来種である遺伝子型Aでは持続感染に移行することがあります。

配偶者や家族がHBV持続感染である場合は感染予防のためワクチン接種をお勧めします。

経過

成人してからの感染ではたいてい急性肝炎として発症します。数%の割合で重症化することがありますが、一般的には数週間で回復過程に入ります。ただし急性肝炎でも遺伝子型Aの場合は持続感染し、慢性肝炎となることがあり要注意です。

母子感染した子供は持続感染者となり、思春期以降に肝炎を発症します。内80~90%は10~30才台に強い一過性の肝炎を起こし、その後肝炎は終息しますが、残りの10~20%は慢性肝炎に移行し、その中から肝硬変、肝細胞がんになる人がいます。

治療方法

急性B型肝炎は一般的に抗ウイルス療法はせず、自然回復を待ちます。しかし重症化が危惧される場合は抗ウイルス薬や血漿交換、最終的には肝移植が必要になることもあります。最近増加しつつある遺伝子型Aは慢性化が約10%と報告されており、慢性化が危惧される場合は、早期より抗ウイルス剤で治療します。

慢性B型肝炎の治療は、抗ウイルス薬であるペグインターフェロン(注射薬)や核酸アナログ(内服薬)を用いてウイルス増殖を持続的に抑制することが目標になります。年齢、ウイルス量、ウイルスの遺伝子型、肝臓の線維化の程度などで治療法が異なり、基本はガイドラインに沿って治療することになります。

慢性B型肝炎では,インターフェロンや核酸アナログ治療について公的な医療費助成の申請ができます。詳しくは受診先の専門医または医療機関の相談窓口や保険所にご相談ください。

C型肝炎

主な症状

初期には自覚症状がありません。進行しても何となく体がだるい、疲れやすいなどあいまいな症状のことが多く、血液検査をして初めてわかることも多くあります。肝硬変や肝がんに進行すると黄疸、腹水や脳症など特徴的な症状が出現します。

感染して2~14週間で急性肝炎を起こすことがありますが、大部分は症状もなく不顕性感染に終わります。60~80%が慢性肝炎に移行し、感染して約20年で30~40%の患者さんが肝硬変に進行します。肝硬変になると年率約7%で肝がんの出現を認めます。肝硬変でなくとも特に高齢者では慢性肝炎から肝がんが出現することがあります。

解説

原因

C型肝炎ウイルスは感染者の血液を介して感染します。過去に輸血、血液製剤、注射針の使い回しなどで感染したものと考えられています。現在問題となるのは、ピアスや入れ墨、覚せい剤などの回し打ち、あるいは不衛生な状態での鍼治療などです。性交渉による感染や母子感染はごくまれとされています。

感染して2~14週間で急性肝炎を起こすことがありますが、大部分は症状もなく不顕性感染に終わります。60-80%が慢性肝炎に移行し、感染して約20年で30-40%の患者さんが肝硬変に進行します。肝硬変になると年率約7%で肝がんの出現を認めます。特に高齢者では慢性肝炎から肝がんが出現することがあります。

治療方法

まずC型肝炎ウイルスの排除を目指して、インターフェロンを使わない経口抗ウイルス薬による治療が主な治療となってきており、遺伝子型Ⅰ型に対する経口抗ウイルス薬は、ほぼ100%に近い確立で、ウイルスが排除できるとされています。副作用や合併症など抗ウイルス薬が使えない場合や治療が無効な場合は、対症療法としてグリチルリチン配合剤やウルソデオキシコール酸の服用、瀉血療法などで肝炎の沈静化を図ります。

C型肝炎では抗ウイルス薬の医療費助成制度があります。詳しくは受診先の肝臓学会専門医または医療機関の相談窓口、保険所にご相談ください。

E型肝炎

解説

原因

E型肝炎はA型肝炎と同様に経口感染するウイルスです。潜伏期は15-50日で急性肝炎を引き起こします。東南アジア、インド、中央アジア、中国、北アフリカ、メキシコなどで流行の報告があります。E型急性肝炎はA型急性肝炎よりも症状が強く、特に妊婦が罹ると劇症化しやすく致命率20%に達することがあります。日本での発症は、大部分海外渡航者と考えられていましたが、最近猪肉、豚肉、鹿肉の生食(加熱不足)などが原因と考えられる国内発生の報告があり、すでにウイルスが国内に土着していると考えられています。非A非B急性肝炎の時は、考慮すべき原因のひとつと考えられています。

脂肪肝・NASH

主な症状

脂肪肝、脂肪性肝炎の自覚症状はほとんどなく、検診や他の疾患で受診した際に腹部超音波検査や血液検査の異常で偶然発見される例がほとんどです。血液検査では異常がなく糖尿病・脂質異常だけのこともあります。

解説

肝臓に過剰に脂肪が沈着した状態を脂肪肝と言います

脂肪肝にはアルコールが原因のアルコール性脂肪肝と、肥満や糖尿病、過食などによる非アルコール性脂肪肝があります。アルコールが原因の脂肪肝はやがて悪化して肝硬変になりますが、アルコール摂取が殆どないにもかかわらず脂肪肝から肝炎、肝硬変に進行するものを非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼んでいます。

原因

非アルコール性脂肪肝の原因は多彩で、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症・睡眠時無呼吸症候群などがリスクとなります。その他、特殊な代謝疾患や薬剤が原因となることもあります。

治療方法

脂肪肝の治療には食事制限や定期的に運動をするなど日常生活を改善することが重要です。NASHでは長い年月をかけて肝硬変へと進行し、肝癌を発症することもあり、治療を継続しながら定期的に医療機関を受診し、経過をみていくことが大切です。

NASHにおいて現在確立した薬物治療法はなく食事カロリー制限や定期的な運動など日常生活の改善が重要です。体重減少がNASHの改善に有効とされています。また糖尿病や高血圧などに対してきちんと薬物療法を行うことも重要です。

アルコール性脂肪肝の治療は禁酒・節酒です。薬物治療は基本的にはありません。

肝癌

主な症状

肝がんに特有の症状はなく、肝炎、肝硬変の症状によるものがほとんどです。全身倦怠感、食欲不振、腹部膨満、下腿浮腫などがあげられますが、これらは肝がんに特徴的とはいえません。

解説

肝臓原発の肝がんは、大きく肝細胞がんと胆管細胞がんに分けられますが、90%以上は肝細胞がんで、名前の通り、肝臓の細胞にできる悪性の腫瘍です。B型肝炎やC型肝炎などのウィルス性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変などを母体として出来やすいがんです。最近では脂肪肝(NASH)からも発がんすることが分かってきました。

検査

超音波検査やCT検査などが必要です。慢性肝炎では半年に一回、肝硬変では3ヶ月に一回の検査が好ましいと考えられています。また造影MRIでは小さい肝がんが検出できるようになっています。また血液検査で肝機能などを調べる他、腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-2などを調べます。

診断が難しい場合などでは腫瘍部分の組織を一部採取する肝生検検査がありますが、この検査は1泊入院が必要となります。

治療方法

肝細胞の障害の程度、がんの進行度により、治療法を選択します。また、肝炎、肝硬変の治療と並行して行います。

手術

肝臓の予備能が良い場合に切除手術を行います。

局所療法(ラジオ波熱凝固療法、エタノール局注療法など)

3cm、3個以内が適応条件となっています。最近ではラジオ波熱凝固療法が主流です。

  • ラジオ波熱凝固療法(RFA)
    超音波で腫瘍を同定し、局所麻酔下に特殊な針を皮膚から刺し、熱を発生させて肝癌を熱凝固させます。
  • エタノール局注療法(PEI)
    超音波で腫瘍を同定し、針を指してそこからアルコール(エタノール)を注入し、肝癌を凝固壊死させます。
肝動脈塞栓術・抗がん剤動注療法・経口分子標的薬

太ももの付け根にある大腿動脈を穿刺しカテーテルを挿入します。カテーテルが肝動脈まで到達すれば、そこから造影剤を注入しがんの存在部位を確認します。その後、抗がん剤やゼラチンスポンジなどを注入しがんを養う血管を詰めてしまいます。肝臓は門脈と呼ばれる血管で栄養されるために、肝動脈は詰めても肝機能に影響は少ないとされています。

進行した肝がんではカテーテルの先端を肝臓の血管に留置したまま、体表に埋めた特殊な装置から繰り返し抗がん剤を注入する持続動注療法が行われます。

肝がんは、ウィルス性肝炎や肝硬変を母地として発生する危険が高いがんで、根治治療後5年間の肝がん再発率は70-80%と報告されています。そのため治療後も定期的な検査が必要です。更にがんの治療と平行して、肝硬変の治療や肝炎ウイルスに対する治療も必要です。

胆道系感染
(急性胆のう炎・急性胆管炎)

主な症状

発熱・黄疸・腹痛などの症状が出現し、進行するとショック(血圧低下)、意識障害などの重篤な状態に陥ることもあります。

解説

胆石や腫瘍などで胆汁の流れが停滞するとその上流の胆管・胆のうで細菌感染が起こります。感染の場所が胆のうであれば胆のう炎、胆管であれば胆管炎と呼びますが、両者を合併していることも少なくありません。

治療方法

急性胆のう炎

絶食、点滴、抗生剤投与により保存的に治療を行う方法、胆のうに針を刺して感染した胆汁を抜く方法(PTGBA、PTGBD)、外科的に胆のうを直接手術で取る方法があります。胆のう内に胆石が存在することが多く、内科治療で一時的に改善しても再発する危険性があるため、最終的には外科的手術が必要となることがあります。外科的手術の時期については、発症時に行う場合と、炎症が落ち着いた後に行う場合があります。胆のう摘出術は基本的に腹腔鏡を用いて行います。手術の方法については外科のページを見て下さい。

急性胆管炎

多くの場合、絶食、点滴、抗生剤投与と同時に感染した胆汁を排泄するための治療(胆管ドレナージ術)が必要です。

胆汁の排泄方法(ドレナージ術)としては、内視鏡を用いて十二指腸から胆管にチューブを挿入する方法(ERCP)、おなかの表面から肝臓内の胆管にチューブを挿入する方法(PTCD)、手術で開腹してチューブを挿入する方法があります。重症の胆管炎では、早期に適切に感染した胆汁をドレナージしないと死に至ることがあります。

胆管炎はその治療だけでなく、胆管炎の原因となった病気(結石、がんなど)について詳しく検査し治療を行う必要があります。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

専用の十二指腸内視鏡を用いて細いチューブを十二指腸乳頭に挿入し、造影剤を注入して胆道系、および膵臓の詳細を調べる検査。加えて細胞を採取する検査をしたり、胆石の除去治療、胆汁の流れを改善する治療(ドレナージ術、ステント留置術)を行うことも可能です。

PTBD(経皮経肝胆管ドレナージ術)

黄疸を緩和する目的で、皮膚から直接肝臓内の胆管(胆汁が流れている管)にチューブを挿入し、体外に胆汁を流す方法。

膵臓癌

主な症状

腹痛、体重減少、黄疸、糖尿病の出現・悪化などが主な症状ですが、初期には無症状のことがほとんどです。進行がんになると背部痛、下痢を認め、これはがんが膵臓にとどまらず周囲に広がったことを示します。

解説

膵臓癌とは膵臓から発生した悪性腫瘍で、そのほとんどが膵液を運ぶ膵管から発生する膵管がんで、通常型膵臓癌とも呼ばれます。2009年のがんの死亡者数では男性5位、女性4位で、女性は増加傾向にあります。

原因

はっきりとした原因は不明ですが、危険因子は次のようなものがあります。膵臓癌の家族歴、糖尿病、肥満、慢性膵炎、嚢胞性膵腫瘍、喫煙などです。

診断

腹部エコー、造影CT、FDG-PET、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、超音波内視鏡(EUS)などの画像とERCPやEUSを用いた細胞・組織診にて診断します。特にERCPやEUSによる細胞・組織診は早期診断に重要です。

進行度

画像診断で進行度を決め治療方針を決定します。進行度は下記の通りです。

  1. がんが膵臓の内部にとどまり、転移はない。
  2. がんは膵臓の内部にとどまるが、周囲のリンパ節に転移がある。または、がんは膵臓外へ少し出るが主要血管まで及んでいない。
  3. 膵臓の腫瘍が周囲の主要血管まで及んでいる。
  4. 膵臓から離れた臓器に転移がある。
その他

膵臓癌は早期発見が難しく、未だに治療成績が悪い代表的な消化器がんです。先にあげた危険因子のある方は積極的にエコーやCTを受けてください。エコーやCTで膵管拡張や膵嚢胞を認めた方は専門医を受診してください。

治療方法

おおまかに進行度によって下記のように治療を選択するのが標準です

I、II期は外科的手術、III期は抗がん剤と放射線を組み合わせた治療、IV期は抗がん剤単独治療です。また黄疸を軽減する処置や緩和療法は、必要であればすべての進行度で行います。

大腸がん

主な症状

初期にはふつう何の症状もありません。進行がんでは血便、便が細くなる、残便感、下痢と便秘を繰り返す…など排便に関する症状が出ます。貧血症状があらわれてはじめて気がつくこともあります。更に進行すると腸の内腔が狭くなり腹痛や腹鳴、腹部膨満感を起こすことがあります。

無症状で便潜血反応が陽性となったり、腫瘍マーカーの上昇による精密検査で発見されることもあります。

解説

大腸がんには遺伝性素因が影響することが知られています。親兄弟などに大腸がん、大腸ポリープがある方は積極的に検診を受けて下さい。また、生活習慣に関わる大腸がんのリスク要因として、運動不足、野菜や果物の摂取不足、肥満、飲酒などが挙げられています。この20年で大腸がんによる死亡数は1.7倍に拡大していて、生活習慣の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与していると考えられています。

治療方法

大腸がんと診断された場合、病気の状態(進行度、ステージ)を把握するために、血液検査や内視鏡検査、画像検査(CT、MRなど)が必要です。がんの進行度、年齢、全身の状態などを総合的に判断して治療方針を決定します。内視鏡治療、手術、化学療法(抗がん剤治療)が標準的な治療法です。

炎症性腸疾患

主な症状

腹痛、下痢、粘血便、発熱低栄養、貧血など

解説

炎症性腸疾患( Inflammatory Bowel Disease = IBD)とは

一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの病気を言います。これらの疾患は発病の原因が明らかではなく、若年者に多く発生し、緩解(症状がおさまる)と再燃(症状が悪化する)を繰り返す慢性・難治性の消化管疾患です。厚生労働省より特定疾患に指定されており、全国で2009年までに、潰瘍性大腸炎の方が113,306名、クローン病の方が30,891名登録され年々増加傾向にあります。

潰瘍性大腸炎

直腸から連続して大腸粘膜にびらん、潰瘍を形成する大腸疾患です。病変部位により、全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型に分類されます。
症状は腹痛、下痢、粘血便、発熱などを認めます。
診断には臨床症状に加え、内視鏡検査が重要です。
長期間にわたる慢性例ではで大腸癌の危険性が高まることが指摘されています。

クローン病

10~20代の若年者に好発し、口から小腸、大腸、肛門までのすべての消化管に慢性炎症をきたします。
症状は腹痛、下痢、発熱や栄養の吸収障害による低栄養や貧血などを認めます。痔ろうや肛門周囲膿瘍が初発症状であることも多く、若年者でこれらの病変を見た場合、クローン病を念頭に置く必要性があります。消化管の非連続性の縦走潰瘍(腸の縦方向に一致して長く延びる)が特徴で、狭窄による腸閉塞や腸穿穿孔により手術療法が必要とされることもあります。

治療方法

原因は解明されておらず、根本的な治療法はありません。現在行われている炎症性腸疾患の治療は、薬物療法(ペンタサ、サラゾピリン、アサコール、ステロイド、アザチオプリン、注腸薬など)と栄養(食事)療法、手術療法があります。白血球除去療法やタクロリムス、インフリキシマブなどの免疫調節剤も導入され大きな治療効果が得られています。同じ炎症性腸疾患でもそれぞれの病態や経過が異なっており、これらの治療法を適切に選択し組み合わせて使用する必要があります。

長期の療養を必要とする疾患ですが、上手に病気をコントロールできれば、ほぼ正常の生活を営むことが可能となります。

ウイルス性肝炎

解説

肝炎ウイルスに感染して肝臓の細胞が障害される病気で、急速に肝細胞が破壊される急性肝炎,劇症肝炎と,長期間(6ヶ月以上)にわたり軽度の肝障害が続く慢性肝炎に分類されます。慢性肝炎は治療せず放置すると肝硬変や肝細胞がんになることがあります。肝炎ウイルスには現在5種類のものが確定さていて、A型、B型、C型、D型、E型肝炎と呼ばれています。日本で問題になるのは、ほとんどがA型、B型、C型の3種類です。最近E型急性肝炎の報告が増加しつつあります。