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当科の診療について

分子標的薬

近年がんの発生メカニズムやがん細胞が増殖するために必要な分子レベルのメカニズムが明らかにされつつあります。また、正常の細胞と同様にがん細胞にもがん幹細胞が存在することが分かってきました。抗がん剤治療により寛解導入に成功しても、再発してくるのはがん幹細胞が薬剤抵抗性を持っているためであることも明らかにされました。

がん幹細胞を含む、がん細胞の生存や増殖に必要な特定の分子を標的にしてその機能を抑えることでがんを治癒させようとする方法が研究されています。分子標的薬は創薬の段階から標的分子を絞り込んで設計されたものを指しています。

血液疾患の領域で現在使用されている薬剤は低分子化合物とモノクローナル抗体の二つに大別されます。前者ではチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブと、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブがあり、後者ではリツキシマブ、インフリキシマブ、トシリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシンなどがあります。

細胞ががん化する機序は一つの分子だけが関与していることは稀で、いくつもの遺伝子、蛋白分子が関与しています。開発中の薬剤も含め、一つの薬剤のみでがんを治療することはおそらく困難と予想され、分子標的薬同士の組み合わせや分子標的薬と従来の治療法との組み合わせが治療成績の向上をきたすものと期待されます。

造血幹細胞移植

平成25年5月に移転した新病棟では無菌病室が完全無菌2床、準無菌2床と拡充されました。無菌病室では平成23年度より悪性リンパ腫や骨髄腫を対象に自己末梢血幹細胞移植を実施しています。

当科では実施しておりませんが、1970年代初期に始まった同種造血幹細胞移植は臨床導入後既に40年以上経過し、現在もなお造血器腫瘍の治療の柱であり続けています。当初は若年者に限られていた移植治療も、移植方法の改善や薬剤の新規開発で一部の疾患では60歳を超えた患者様にも適応されるようになっています。同種造血幹細胞移植は血縁者から非血縁者へ、さらにはさい帯血をも利用可能となり、HLA抗原半合致移植の導入に至ってはほぼ全ての患者様に移植治療が可能となる所まできています。

同種移植は免疫の力を利用した治療法ですが、がん細胞がどのようにして自己の免疫担当細胞からの攻撃を免れているかが理解されると、移植以外の方法でも自己の免疫能を活用した治療法が開発される可能性があります。細胞障害性Tリンパ球の働きを抑えるPD-1-PD-L1系、マクロファージなどの貪食細胞の活性を抑えるCD47-SIRPαの系などを標的とする薬剤が今後臨床の現場で試されることが期待されます。

診療内容

当院は日本血液学会研修施設に指定されています。

当科では血液の悪性疾患を中心に、各種の貧血や出血傾向を示す疾患の患者さんの診療に当たっています。血液の病気の中では、血液がんの一種である骨髄異形性症候群と悪性リンパ腫が増えており、ご高齢の患者さんの血液悪性疾患の大半を占めるようになっています。平成23年度より自己末梢血幹細胞移植を開始いたしましたが、同種造血幹細胞移植はまだ実施しておりません。同種造血幹細胞移植が必要と判断された場合には、大阪赤十字病院、北野病院、住友病院など、適切な移植治療を実施している病院と連携しています。

従来造血器悪性疾患に対しては、抗がん剤による治癒を目指した治療が試みられてきました。当科でも治癒を目指した治療を基本としていますが、場合によっては治癒ではなく、患者さんの生活の質を重視した「ケア」も積極的に行っています。初診時にはわかりやすい言葉で、丁寧に病気と治療方針の説明をさせていただき、納得の上で治療を受けていただくよう努めています。患者さんの価値観や希望を可能な限り受け入れ、患者さんと医療者が二人三脚で病気と立ち向かうことができるように努めています。

患者さんに必要な医療は多くの職種によって支えられるべきで、私たちは医師、看護師、検査技師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどによるチーム医療を推進してまいります。これからの医療は在宅でのケアも重要な部分を占めると考えられ、病院内におけるチーム医療のみならず、在宅の先生方や訪問看護ステーションの皆さんとも共同で、患者さんのニーズにあった医療の提供を実践してまいりたいと考えています。

可能な検査

悪性リンパ腫などの造血器腫瘍は近年の免疫学や遺伝子研究から新しい知見が増え、現在はWHO分類2008年版が使用されています。以前は大学病院のような施設でないとできなかった検査も、最近は一部の例外を除けば、一般病院でも染色体、表面抗原、遺伝子検査が可能です。当科ではできる限りの詳細な検査で診断の正確さを期し、その上で隣接する中ノ島クリニックでのPET-CT検査でより正確な病期の把握、治療効果判定を行っています。


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