地域の医療機関の先生方へ
診療内容
病診連携の推進
2011年春に立ち上げた「西部大阪肝疾患地域連携会」は、初期の福島区・此花区医師会、関西電力病院、JCHO大阪病院に加えて、西区医師会、港区医師会、西淀川区医師会、大正区医師会、日本生命病院、JCHO大阪みなと中央病院、千船病院の賛同、参加を得ました。2024年度より「西部大阪肝胆膵疾患地域連携会」と疾患範囲を広げ、医師向けの学術講演会を年1回開催、市民公開講座を年1回開催しています。
1.消化管(食道・胃・十二指腸・小腸・大腸)疾患
拡大観察や特殊光観察(NBI)など新しい技術を積極的に取り入れた精度の高い内視鏡を目指し、常に複数の医師による画像・症例の検討の上で診断・治療を行っています。近年ニーズの増大している鎮静下内視鏡検査も可能です。がんや粘膜下腫瘍の診断に対しては超音波内視鏡(EUS)や、EUSを応用した超音波内視鏡ガイド下穿刺を行っています。
内視鏡的早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術(ESD)・内視鏡的粘膜切除術(EMR)など
当科では咽頭・食道・胃・十二指腸・大腸の表在型腫瘍・早期悪性腫瘍に対しては2006年以来はほとんどをESDの手法を用いて精度の高い内視鏡治療を行っています。患者さんの全身状態や病変によっては従来のEMRを行う等、患者さん一人ひとりに最適の治療を選択しています。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の診断・治療について
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease = IBD)とは、腸管の慢性あるいは寛解・再燃性の炎症性疾患の総称であり、主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2疾患(狭義的)を指します。広義的には感染性腸炎や薬剤性腸炎、虚血性腸炎、腸管ベーチェット病なども含まれます。ここでは狭義的IBDについて説明します。
潰瘍性大腸炎
直腸から連続して大腸粘膜にびらん、潰瘍を形成する原因不明の非特異的腸炎です。病変部位により、全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型に分類されます。腹痛、下痢、血便、発熱等の症状が増悪・寛解を繰り返すことが特徴で、重症例では手術が必要となることがあります。慢性的に炎症が持続することで大腸癌発生リスクが高まることが報告されており、定期的な検査と適切な治療により寛解状態を維持することが重要です。
クローン病
口から肛門までのすべての消化管に浮腫や深い潰瘍、瘻孔(腸管と腸管あるいは他臓器や皮膚とのトンネル)を生じる原因不明の慢性進行性の炎症性疾患です。腹痛、下痢、発熱、肛門周囲痛(痔瘻や肛門周囲膿瘍)、体重減少等の症状が増悪寛解を繰り返しながら慢性的に症状が進行します。消化管の非連続性の縦走潰瘍(腸の縦方向に一致して長く延びる)が特徴で、狭窄による腸閉塞や腸穿孔により手術が必要となることがあり、定期的な検査と適切な治療で早期の寛解導入・維持が重要です。
検査
病変の広がりや重症度を以下の検査を組み合わせて評価します。
潰瘍性大腸炎:採血、便中カルプロテクチン、内視鏡検査、CT、エコー
クローン病:採血、内視鏡検査、CT、小腸造影検査、エコー
治療方法
潰瘍性大腸炎の治療は5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ・アサコール・リアルダ)で治療を開始し、必要に応じて注腸・坐薬などを追加します。
炎症が高度の場合、ステロイドや免疫調節薬(タクロリムス・アザチオプリン・6-メルカプトプリンなど)や抗TNF-α抗体製剤、抗IL-23抗体製剤、抗α4β7インテグリン抗体製剤、JAK阻害薬、白血球吸着除去療法などの治療を組み合わせます。
クローン病の治療は5-アミノサリチル酸製剤(ペンタサ)で治療を開始し、活動性に応じてステロイドや免疫調節薬(タクロリムス・アザチオプリン・6-メルカプトプリンなど)や抗TNF-α抗体製剤、抗IL-23抗体製剤、抗α4β7インテグリン抗体製剤、JAK阻害薬、白血球吸着除去療法、抗菌薬(メトロニダゾール、シプロフロキサシン)を組み合わせます。また、栄養療法の有効性も報告されており、低脂肪・低残渣食による腸管安静が必要となる場合もあります。
いずれの疾患でも薬物療法によるコントロールが困難な場合には手術が必要になります。
長期の療養を必要とする疾患ですが、上手に病気をコントロールできれば、ほぼ正常の生活を営むことが可能となります。
ピロリ菌 (ヘリコバクター・ピロリ) 除菌治療
わが国の胃・十二指腸潰瘍の患者さんは、約90%がピロリ菌に感染しており、ピロリ菌は潰瘍の発生・再発等に深く関係しています。私たちは潰瘍の再発を抑制する為、内服薬による除菌治療を積極的に行っています。また、早期の胃MALTリンパ腫や、早 期胃がんに対する内視鏡治療後の患者さんに対する除菌治療も積極的に行っています。
消化管出血に対する内視鏡的止血術
胃・十二指腸潰瘍等からの消化管出血に対して内視鏡を用いた止血術を積極的に行っています。出血病変の部位・性状に応じてクリップ法や凝固法(熱凝固・アルゴンプラズマレーザー凝固)など様々な方法を用い、100%に近い良好な止血成績を得ています。また大腸憩室出血に対して緊急大腸内視鏡を行い、憩室内クリップ結紮やバンド結紮術により高い止血率を得ています。
消化管ステント挿入術
進行食道がんや胃がん、胆・膵の良悪性疾患で消化管狭窄をきたし通過障害をきたした部位に金属メッシュ製チューブ(メタリックステント)を挿入して内腔を広げると食事が可能になります。当科では内視鏡を用いたステント挿入を積極的に行っています。
2.肝臓・胆のう/胆管・膵臓疾患について
肝臓病はB・C型慢性肝炎、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、肝硬変、肝癌など慢性疾患が多いのが特徴です。当科には肝臓専門医が5名在籍し、地域の先生方と協力しながら、患者様の病状に合わせた細やかな診療を心がけています。また胆道・膵臓疾患は、超音波内視鏡を中心にCT・MRCP、PET検査など最新の画像診断を用い、適切で速やかな診断治療を心がけています。胆・膵腫瘍の確定診断などの目的のため、超音波内視鏡下の穿刺組織診(EUS-TA)や経乳頭的な細胞診を行っています。また術後の再建された消化管に対するダブルバルーン内視鏡を用いたERCも施行しています。
肝がんの診断と治療
肝がんの早期診断の為に主に造影超音波検査・造影MRI(EOB-MRI)・腫瘍生検を用いています。肝細胞がんの治療方法は癌の進行度と肝予備能により大きく異なります。私たちは内科・外科・放射線科との合同カンファレンスを行い、日本肝臓学会推奨の肝癌治療アルゴリズムを参考に、個々の患者様に適した治療方針を決定しています。当科では2002年から小型肝細胞癌や転移性肝癌に対して経皮的ラジオ波熱凝固療法(RFA)を導入し、現在まで約1000例以上の経験があります。外科と協力し開腹下RFAも行っており、更に2012年よりReal-time virtual sonographyを用いたRFAを導入いたしました。2024年度よりマイクロ波熱凝固療法開始しました。がんの進行度に合わせ、全身化学療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)や肝持続動注化学療法、腫瘍栓に対する放射線療法など集学的治療に努めています。
B型慢性肝炎の抗ウィルス療法
B型肝炎の経過は、肝炎の進行やウィルスの状態など個人差が大きいため、専門医が患者様個別に、年齢・ウイルス量・肝線維化程度・ウイルス遺伝子型などにより、経過観察、経口抗ウィルス薬(エンテカビルやテノホビル)やペグインターフェロンなど適切な治療法を選択します。肝硬変でも経口抗ウィルス薬を用いて肝機能が著明に改善する可能性があります。
C型慢性肝炎の抗ウィルス療法
経口抗ウイルス薬(DAAs)により95%以上の方が治癒可能となりました。当科では2016年3月現在約100例にDAAsを投与し、高い治癒率を得ています。現在2種の治療法があり、症例によって最も適した治療薬を選択しています。抗ウイルス療法ができない患者様には、肝庇護療法を行い肝炎の進行抑制・発癌抑制に努めています。
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の診断と治療
飲酒歴なしや機会飲酒の方で、肝機能異常と脂肪肝を指摘される人が増えています。この脂肪肝をMASLDといい、主な原因は肥満・糖尿病などです。またNASLDの重症型に代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)があり、MASHの30-50%は線維化が進行すると言われ、またMASH肝硬変の肝発癌率は2-3%/年と報告されています。当院での線維化の進んだMASHの肝発癌率は約6%/年と高率であり、定期的な肝画像診断が必要です。最近MASHの有病率は人口の3~5%と推定され、最も多い慢性肝疾患であります。当科では2000年頃からこの疾患に注目し、肝生検による診断を行ってきました。MASHは早期に診断し、体重を減らせば治療ができます。当院では栄養士による食事指導など積極的に治療に取り組んでいます。
食道・胃静脈瘤治療
食道・胃静脈瘤は慢性肝疾患の重大な合併症であり出血すると命の危険があります。私たちは出血する前の治療を心がけ、CT 他の検査で血行動態を把握し一人ひとりの患者さんに最適な治療法として内視鏡を用いた血管内注入硬化療法と結紮療法、B-RTOなどのカテーテルを用いた治療を選択しています。胃静脈瘤の出血に対しては、ヒストアクリルを用いた緊急止血治療を行っています。
総胆管結石の内視鏡治療
総胆管結石の患者さんには原則的に内視鏡的乳頭切開術(EST)+内視鏡的乳頭拡張術(EPBD)を行い、結石除去を行っています。出血傾向のある方や胃切除後の方、小結石の場合はEPBDを用いて結石除去することも可能です。消化管再建術後の方はダブルバルーン内視鏡を用いたDB-ERCにて結石治療を行っています。
内視鏡的胆道ドレナージ(EBD)、経皮経肝的胆道ドレナージ(PTBD)
悪性腫瘍等で胆管が閉塞し、胆汁の流れが悪くなると黄疸、肝障害、胆管炎等で致死的となる場合があります。このような場合、胆汁を十二指腸または体外へ「胆道ドレナージ」することが必要です。当科では原則として内視鏡を用いて経乳頭的にプラスチックまたはメタリックステントを狭窄部に挿入し胆汁を十二指腸へドレナージします(EBD)。内視鏡的なドレナージができない場合は、体外から経皮的にエコー下で胆管を穿刺し胆汁を体外へドレナージすることもあります(PTBD)。またこの経皮的なルートで胆管狭窄部へメタリックステントを挿入し、胆汁を十二指腸へドレナージすることもできます。
超音波内視鏡下膵周囲液体貯留ドレナージ(EUS-PFD)・経胆道ドレナージ(EUS-BD)
急性膵炎や慢性膵炎、膵切除後に、膵周囲に液体貯留を認め、のう胞化することがあります。更に感染や症状がある場合、超音波内視鏡下に主に胃からのう胞を穿刺し、のう胞内の膿など内容物を消化管へドレナージしています。また悪性腫瘍による閉塞性黄疸等で経皮的や経乳頭的な胆汁ドレナージが出来ない場合、超音波内視鏡下に消化管から胆管を穿刺し、胆汁を消化管へドレナージします。
経皮的ラジオ波熱凝固療法(RFA)・Real-time virtual sonography(RVS)を用いたRFA
RFAはUSガイド下で経皮的に腫瘍に凝固針を穿刺し、高周波で熱凝固する最も確実な肝癌局所治療法です。肝細胞癌に対するRFAの適応は、①遠隔転移なし、②Child-Pugh A/B、③脈管侵襲なし、④3cm・3個までが適応となります。特に乏血性の小型高分化型肝癌は、US上不鮮明な場合が多く、RVSを用いたRFAが極めて有効です。RVSはFusionやVolume navigationとも言い、DICOM形式で取り込んだCTやMRIなどのvolume dataを参照しながら、超音波画像と同一断面のCT・MRI-MPR画像をリアルタイムに同一画面上に表示するシステムです。したがって超音波で描出しにくい肝腫瘍を、CTやMRIの画像を参照しながら凝固針を腫瘍へ穿刺でき、RFAを確実に施行できることになります。
造影超音波検査
アレルギーや腎障害などの副作用が極めて少ない超音波用造影剤ソナゾイドを静注し、肝臓の造影超音波検査を行っています。肝腫瘍の診断、ラジオ波熱凝固療法時の治療支援に特に有用です。CTやMRI画像を超音波装置に取り込んでリアルタイムに参照できるバーチャルUSシステムが可能な超音波装置を用いて診断、治療に役立てています。
エコーガイド下経皮的(超音波内視鏡下)肝生検、肝腫瘍生検
MASHなど慢性びまん性肝疾患の診断、慢性肝炎など肝疾患の進行程度の診断、肝腫瘍の鑑別診断などの目的で施行します。当院ではエコーガイド下肝生検を1泊2日の入院で行っています。また経皮的に肝生検が困難な場合は超音波内視鏡下に肝(腫瘍)生検も行っています。