人工関節・関節鏡センター
膝関節外科領域
変形性膝関節症について
多くの場合、年齢とともに関節軟骨がすり減り、変形してくることにより起こる、変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)が認められます。年齢に関係なく、骨折や捻挫などの怪我の後に起きる場合もあります。変形性関節症は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に進行していきます。症状は痛みや腫れ、運動制限や変形などがあげられます。膝は変形性関節症の起こりやすい部位です。膝の痛みの原因として、怪我以外で症状がなかなか改善しない場合、上記の変形性膝関節症の可能性があります。また、後述する半月板損傷を合併している場合もあります。診断はX線や診察、場合によっては注射やMRIを行うこともあります。
変形性膝関節症の保存治療(手術以外の治療)
運動制限や薬物療法、運動療法などがありますが、当科では原則的には手術治療を中心に行なっておりますので、病状が落ち着けば、お近くのクリニック等での治療をお勧めしております。地域連携室を通じて、ご紹介させて頂いております。病状が進行しお困りの際にはいつでも再診できる体制をとっています。
変形性膝関節症の手術治療
前述の保存治療で症状が改善しない場合や、画像や診察上で急速に進行することが予想される場合、などが手術の適応となります。主な術式は、すり減った骨を切除して、かわりに人工の骨を移植する人工関節置換術を行ないます。虫歯で減った歯を削り、かぶせ物をして、痛みをとって噛める歯にするようなイメージです。その他に、O脚を矯正してすり減った関節を長持ちさせる、高位脛骨骨切り術(HTO: high tibial osteotomy)も行っています。この人工膝関節手術は30年以上の歴史があり、現在も少しずつ進歩しています。最近では特に最少侵襲外科手術(さいしょうしんしゅうげかしゅじゅつ、MIS: minimum invasive surgery)といった、身体への負担のより少ない手術という観点から、一般的に行なわれている、全置換術(TKA: total knee arthroplasty)ではなく、損傷している部分だけを置き換える単顆置換術(UKA: unicompartmental knee arthroprasty)に力を入れています。当科でのUKAは、単に皮膚の切開が小さいだけではなく、一切の筋肉を切開しない真の低侵襲手術であり、術後の早期の機能回復が期待できます。いずれも、病状やニーズに合わせた手術治療が可能となっております。また、術後の回収血輸血による、同種血輸血(他人の血液を輸血すること)の回避や、術後の抗凝固療法薬の使用による静脈血栓塞栓症の予防にも取り組んでいます。入院期間は約2~3週が目安(UKAの場合)で、長期間のリハビリをご希望される場合には、院内の回復期リハビリ病棟や、連携しているリハビリ病院にご紹介することも可能です。変形性関節症がそれほど進行していなくても、膝の痛みや水が貯まったり、運動障害が続く場合があります。診察やMRIなどで半月板損傷が疑われる場合は、関節鏡の手術が勧められます。もともと軟骨がすり減る、変形性関節症があるため、関節鏡手術で症状全てが改善する訳ではなく、病状に応じて幅があります。半月板による症状はほぼなくなるため、また保存治療を継続することで、改善が期待できます。現在治療は澁谷、馬谷医師が行っています。
半月板損傷
怪我(転倒した、捻った、高いところから落ちたなど)など、はっきりした原因がある場合もありますが、繰り返しの負担により、半月板損傷を生じる場合もあります。程度に幅はありますが、軽度の軟骨損傷を伴っていることが多いです。診断は、診察とMRIを行ないます。典型的な症状は、痛みで膝が伸ばせない、曲げられない、あるいは、膝を動かしたときに痛みとひっかかり感がある、などですが、保存治療で改善しない場合は、軟骨損傷が進行する可能性もあるため、関節鏡手術を勧めています。 数mm径の内視鏡で、関節内を観察、処置が可能ですので、術後の痛みも少なく、数日~10日程度で退院が可能です。手術後もしばらくはリハビリを行い、経過をみていく必要があります。現在治療は馬谷医師が行っています。
その他
前・後十字靱帯損傷、滑膜ひだ障害(タナ障害)、関節内遊離体(関節ねずみ)、膝関節滑膜炎など、その他の膝関節疾患の治療も行なっています。現在治療は馬谷医師が行っています。
股関節外科領域
変形性股関節症について
変形性関節症は、多くの高齢者に見られる一種の老化現象ですが、治療が必要になる変形性股関節症として日本で一番多いのは、先天性股関節脱臼(生まれつき股関節が外れている)、臼蓋形成不全(関節の受け皿が生まれつき小さい)に続いて起こる関節症です。その他には、関節リウマチや、怪我によるもの、大腿骨頭壊死に続く場合があります。他には、はっきりとした原因なく起こる原発性股関節症も、まれにあります。通常は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に進行していき、痛みや可動域制限(関節の動きが悪くなる)を生じます。上記の関節症の前段階として、最近注目されている、関節唇損傷やFAI: Femoroacetabular impingement(大腿臼蓋インピンジメント)が上げられます。これまで見逃されていましたが、MRIなどの検査機器の性能向上により、診断されることが増えてきました。通常は保存治療で改善しますが、場合によっては関節鏡による治療を要す場合があります。
変形性股関節症の保存治療
運動制限、薬物療法、運動療法などがありますが、当科では原則的には手術治療を中心に行なっておりますので、病状が落ち着けば、お近くのクリニック等での治療をお勧めしております。地域連携室を通じて、ご紹介させて頂いております。病状が進行したり、お困りの際にはいつでも再診してご相談させていただきます。
変形性股関節症の手術治療
前述の保存治療で症状が改善しない場合や、画像や診察上で急速に進行することが予想される場合、などが手術の適応となります。当院では、すり減った骨と軟骨を切除して、かわりに人工の骨を移植する人工関節置換術を中心に行なっています。骨切術や関節形成術などの他の手術方法に比べ短期間で安定した成績が長所です。しかしながら、脱臼・感染・磨耗・ゆるみなど、人工関節を用いることによる短所も、少なからずあります。それぞれについて対策をたてて、個人個人に最適な治療を選択し、手術を行っていきます。ここ数年は、最少侵襲外科手術(MIS: minimum invasive surgery)といった、身体への負担のより少ない手術方法、特に、皮膚の切開が小さいだけではなく、一切の筋肉を切開しない真の低侵襲手術(筋温存、muscle sparing)、に取り組んでいます(低侵襲手術は初回手術のほとんどの方に行えますが、股関節の状態、特に変形や脱臼の程度によっては行えない場合があります)。また、術前の自己血貯血による、同種血輸血(他人の血液を輸血すること)の回避や、術後の抗凝固療法薬の使用による静脈血栓塞栓症の予防にも取り組んでいます。入院期間は約2~4週が目安で、長期間のリハビリをご希望される場合には、院内の回復期リハビリ病棟や、連携しているリハビリ病院にご紹介することも可能です。手術時期や手術方法などについてお悩みがあれば、一度受診しご相談下さい。現在治療は澁谷医師が行っています。
肩関節外科領域
肩関節に熟練した医師(馬谷)が担当しております。腱板断裂や反復性肩関節脱臼、Loose shoulder(動揺肩)、凍結肩、肩関節拘縮、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症、肩鎖関節脱臼、スポーツ障害肩、各種骨折・外傷などあらゆる肩関節周囲の疾患に対応しております。保存療法や手術療法を問わずリハビリテーション科と密に連携し、治療にあたります。手術は、原則関節鏡を中心とした最小侵襲で行います。
腱板断裂
年齢とともに増加(50歳代で10%、60歳代で20%、70-80歳代で40-50%)し、そのうち症候性(有症状)の割合は1/3程度と言われています。 主な症状は、疼痛や運動障害(筋力低下・易疲労性)です。外傷によるものは半数程度で、残りの半数には明らかな原因はないと言われており、加齢による変化、酷使、糖尿病、喫煙歴などに影響を受けると言われております。症状や断裂の大きさ、腱板の萎縮の程度、年齢、職種、スポーツ復帰の希望などによって治療方針を決定致します。治療は、リハビリテーションや関節内注射、手術となります。 手術は、原則関節鏡を中心とした最小侵襲で行います。状態に応じて関節鏡視下腱板修復術、Debeyre-patte変法(腱板前進術)、上方関節包再建術、棘下筋回転移行術、リバース型人工肩関節全置換術などを行います。術後は3-6週間の装具固定が必要となり、その期間中は入院を推奨しております。
画像: 公益社団法人 日本整形外科学会ホームページ
反復性肩関節脱臼
肩関節は、全身で一番脱臼しやすい関節です。若年者ほど一度脱臼すると、再脱臼しやすくなります。(10歳代で初回脱臼すると80-90%の確率で再脱臼)脱臼や脱臼不安定感によるスポーツや仕事、日常生活への影響がみられる場合、手術を考慮致します。手術は、基本的には関節鏡視下関節唇修復術で行いますが、再脱臼のリスクが高い場合[繰り返す脱臼によって生じた関節窩(受け皿)やHill-sachs lesion(上腕骨骨頭後面)の骨欠損が大きい、コンタクトスポーツなどへの復帰を希望]には、烏口突起移行術(Bankart&Bristow変法)を行います。スポーツ復帰の目安は術後6ヵ月以降となります。
画像: 公益社団法人 日本整形外科学会ホームページ
Loose shoulder(動揺肩)
元来肩関節が緩い方が軽度の外傷を契機に前方や下方、後方へ不安定になった状態です。リハビリテーションによる治療が中心となりますが、治療に反応せず日常生活に支障をきたしている場合には手術を考慮致します。手術は、関節鏡視下関節唇修復術や関節包縫縮術を行います。
凍結肩(五十肩、肩関節周囲炎)
40-60歳代の普段あまり身体を動かしていない方に好発します。主な症状は、可動域制限、疼痛(特に夜間痛)です。明らかな原因なく発症しますが、軽微な外傷を契機に発症する事もあります。自然に治癒すると言われてきましたが、近年放置すると罹病期間の長期化や症状の残存が生じると言われており(特に糖尿病などの生活習慣病や喫煙歴のある方)、運動療法やリハビリテーション、関節内注射などが重要視されてきています。治療に難渋した場合には手術を考慮致します。手術は、関節鏡視下授動術(関節包解離術)を行います。手術後は集中的にリハビリテーションを行うため、術後3-4週間の入院を推奨しております。
石灰沈着性腱板炎
40-50歳代の女性に好発します。肩腱板内に沈着したリン酸カルシウム結晶の炎症によって生じ、治療は局所安静やエコーガイド下穿刺・注射を行います。それでも改善しない場合には手術を考慮致します。手術は、関節鏡で石灰沈着物を除去します。
画像: 公益社団法人 日本整形外科学会ホームページ
変形性肩関節症
長年の酷使によって関節軟骨が擦り減った状態です。脱臼や腱板断裂によって関節軟骨に損傷が生じ、徐々に進行した場合にも生じます。主な症状は、疼痛、可動域制限、動作時の轢音(ゴリゴリといった音)です。日常生活動作に支障が出ている場合、手術を考慮致します。手術は、人工肩関節全置換術またはリバース型人工肩関節全置換術を行います。
肩鎖関節脱臼
高所からの転落やラグビーなどのコンタクトスポーツによる打撲で生じます。転位が大きい場合(Rockwood分類type 3の一部, 4, 5, 6)は手術適応となります。手術は、関節鏡を併用し、2つの金属のボタンと強い糸を用いて脱臼を整復・固定します。
画像: 公益社団法人 日本整形外科学会ホームページ
スポーツ障害肩(野球肩など)
オーバーヘッド動作時(野球・ソフトボール・ハンドボール・やり投げなどの投球動作、バレーボールのアタック動作、テニスのスマッシュなど)の肩関節痛です。スポーツ障害肩は、肩関節以外に根本的な原因が存在することがよくあります。股関節や下肢の柔軟性低下などによって下肢からの運動連鎖が円滑に行えず、肩関節への大きな負荷が繰り返し生じるためです。治療は、リハビリテーションによる保存治療が中心となります。全身の機能や運動連鎖の評価を行い、適宜改善と再発予防(柔軟性や関節可動域の改善、体幹や下肢筋力の強化など)を行います。保存治療での復帰が困難と予想される場合には、手術(関節鏡)を考慮致します。