脳神経外科シニアレジデント
1. 脳神経外科の‘真’のお仕事とは?
~当科運営の基本コンセプト~
我が国における脳神経外科医の臨床的役割(ニーズ)は‘幸か不幸?’か開頭手術・脳血管内手術など外科的治療のみならず、内科的治療においても「脳梗塞や脳出血など」の脳卒中、「頭痛、認知症、多発性硬化症やパーキンソン病など」の脳神経内科的疾患、「てんかん、気分障害など」の精神科的疾患、「めまい、耳鳴りなど」の耳鼻科的疾患、「痺れ、疼痛など」のペインクリニック的疾患、「脊椎症など」の整形外科的疾患、そして、リハビリテーション分野と数えると枚挙に暇が無い程の多岐にわたる関連領域の治療を担っているのが現状です。これに加え生命予後を左右する緊急性の高い脳疾患に日夜1年365日間備えなければなりません。これは日本の脳神経外科医の献身的使命感によって今まで支えられてきた賜物ですが、反面、‘脳外科医’という鎧を脱いだ一人の人間の立場に立てば、甚大な精神的ないし物的犠牲の上に成り立った成果なのです。このような実情を知れば誰もが脳外科医を志す気にはならないでしょう!しかし、医師として患者さんを診る場合、機械の1つの故障したパーツの交換だけで病気が治る訳も無く上記のような多岐に亘る領域の疾患も理解しておくことは必要です。
昨今、医師/患者関係や診療報酬体系、研修医制度の義務化など脳外科診療を取り巻く周辺の医療環境は激変し‘このままでは脳外科医は絶滅する!?’という危機感から当科運営の基本コンセプトが生まれました。つまり、(1)出来る限り多くの脳血管治療専門医や脳卒中専門医などsubspeciality資格を有した脳外科専門医で構成され(2)専門医研修施設として十分な症例があり、(2)脳外科医として専門的に対象疾患の診断・治療に専念出来、(3)若手医師(後期研修医)の臨床指導(手術手技は勿論のこと、学会発表・論文作成・臨床研究などの学術活動)がup-dateな知見に基づき行なえる施設であることが基本コンセプトです。また、(4)全入院患者さんの病状を脳外科スタッフ全員が毎日情報を共有し(5)主治医が休暇で不在の場合でも患者さんに対し同じ医療対応が出来る(6)言い換えれば主治医となってもon-offが明確となりoff call時は緊急呼び出しや担当患者さまのご病状の急変に対してもduty freeとなる事が可能(6)これらの体制により公私共々、毎日の充実した生活が担保されモチベーションの維持が出来る。さらに(7)スタッフの人材は広く公募はしますが、後期研修で一緒に汗を流して‘志を一つに出来る人材’に期待いたします。(8)従って出身大学の派閥や大学医局人事には影響されない組織作りを目指しています。(‘自分の人生は人の都合で決めるものでも従うものでもなく、自分に責任を持ち自分で決めるもの’ではないでしょうか)
2. 関西電力病院脳神経外科の指導方針
当科の基本コンセプトの1つに掲げた通り、指導方針を一言で言えば「その専門分野において人格を涵養し、高い知識と技術を修得出来、他施設においてもチーム医療のリーダーシップをとれる人材の育成」です。しかし、脳外科医を志す以上、外科医なのですから適正な手術適応の判断と安全・確実な手術が自分でプランニング出来、尚且つ、迅速に実行出来ねばなりません。専門医取得については、‘脳外科専門医や脳血管内治療専門医を取得するのが目的ではなく、それらの資格にふさわしい人格・知識・技術を体得した研修医が結果的に得るものでなければなりません’つまり、当たり前の手術を当たり前に出来る事がまずは重要であると考えています。
当科での後期研修は、脳神経外科/脳血管治療専門医取得を志望する者、脳神経内科専門医または脳卒中専門医を目指す過程において脳神経外科的研修を希望する者を対象に概ね1~3年の年限でご指導いたします。後期研修1年次の当科における到達目標は下記の内容です。2年次以後は個別にその知識・技量の到達状態により、指導方針を考慮させていただきます。なお、整形外科を中心として脳神経外科・脳神経内科・リウマチ膠原病内科が合同となった脊椎・脊髄外科センターが稼働中です。脳神経外科専門医取得要件として必修化された脊椎・脊髄外科領域の並行研修を一定期間(数か月~6か月間目途)受けることができます。
診療
- 担当患者の病態に応じて、各種合併症の察知、検査出し、上級医、他科専門医へのコンサルトが適切にできる
- 担当患者に手術説明、病状説明などのインフォームドコンセントが適切にできる
画像診断
- CT・MRIオーダーの使い分けが状況に応じて適切にできる
- CT・MRIの基本的読影ができる
- 脳血管撮影の読影ができる
検査読影
- 典型的異常脳波が読影できる
- 頚動脈エコーが読影できる
- 脳血流SPECTが読影できる
検査手技
- 脳血管撮影が術者として施行できる
- 頚動脈エコーが術者として施行できる
- 術中SEP,MEP,ABRなどのモニタリングができる
手術手技
- 開頭・閉頭操作(硬膜閉鎖も含む)が術者として施行できる
- 穿頭手術(慢性硬膜下血腫、脳室ドレナージ、VPシャントの開腹も含む)が術者として施行できる
- 顕微鏡下手術の助手ができる
学会発表/論文作成
- 脳神経外科近畿地方会の発表
- 症例報告論文の作成(最低1編、和文・英文を問わず)
顕微鏡手術術者となるためのトレーニング
- 専用の顕微鏡科手術トレーニングスペースにおいて実際の手術用顕微鏡を使い人工血管の吻合を50例行う。この後、実技試験で指導医の手技認定を取得すれば脳神経外科顕微鏡下手術の術者と成り得る
3. 診療科からのメッセージ
後期研修で大切なことは、ただその病院の症例数が多いということではなく、「基本的なことがきちんと出来るようになる」ということだと思います。そのためには、見るだけ聞くだけではなく、基礎的なことでも出来るだけ多くのことを実際に経験することが重要だと思います。
現在私は、ほぼ全ての手術(助手または執刀医)や脳血管撮影検査などに直接参加し、上級医の指導を受けています。また困った時はいつであっても遠慮することなく上級医に相談できる環境で、脳神経外科チームの一員として責任のある立場を与えられ、入院患者担当や当直業務も行っています。
もちろん後期研修医の人数によって状況は変わってくると思いますが、このような環境は当院の特徴であると感じています。(脳神経外科後期研修3年目医師)
4. 当科後期研修医の進路
参考として、これまでに当科での後期研修を行った医師の進路を以下に示します。日本脳神経外科学会専門医試験には、全員ストレートで一発合格されています。
- T.H.(2006年徳島大学卒業):他院初期研修(2年間)→他院救命救急センター後期研修(1年間)→当科後期研修(2年間)→当科勤務(2年間)→国立循環器病センター(2年間)→当科勤務(~現在)
- K.I.(2010年神戸大学卒業):当院初期研修(2年間)→当科後期研修(3年間)→九州大学関連病院(7年間)→九州大学助教(1年5ヵ月間)→当科勤務(~現在)
- K.Y.(2011年大阪市立大学卒業):当院初期研修(2年間)→当科後期研修(3年間)→九州大学関連病院(4年間)→京都大学iPS細胞研究所(4年間)→九州医療センター(~現在)
- T.K.(2013年岐阜大学卒業):当院初期研修(2年間)→当科後期研修(2年間)→岐阜大学大学後期研修(1年間)→岐阜大学関連病院(~現在)
- H.K.(2017年滋賀医科大学卒業):当院初期研修(2年間)→当科後期研修(3年間)→九州大学関連病院(2年間)→国立循環器病研究センター(~現在)
- R.M.(2020年奈良県立医科大学卒業):当院初期研修(2年間)→当科後期研修(~現在)