救急集中治療科の後期研修で学んでいただくこと

―総合医の育成を目指します―

当院、救急集中治療科では、後期研修医の先生方に各種ガイドラインに則った治療、理論・根拠に基づいた最新の治療を実践する事を学んで頂くだけが研修の目標と思っておりません。軽症から重症まで幅広い臨床症例を経験していただく中で、総合医となるために以下の4点を研修していただきたいと思っております。

  1. 自らの知識、技術を高めていただく。
    先ずは、集中治療医としての、specialityを高めましょう。重症度の高い救急患者の管理を学び、全体を通じてプライマリケア能力を高めることを目標とします(下記「一般目標」、「行動目標」を参照してください。)集中治療専門医を目指しましょう。
  2. 初期研修医を指導していただく。
    人を教えるためには、自らが十分理解していないといけません。後輩初期研修医を教育することで、(1)の研修をより十分なものとすることが出来るでしょう。また、人からの質問には、自分が考えもしなかったような発想の質問があります。そのような質問を受けることは、自然と自分の知見を高めていくとになると思います。
  3. 臨床研究をしましょう。
    これまで当たり前のように行われてきた診療や論文として紹介されている治療方法にも、実はエビデンスレベルの低いものや再検討すると間違っているものもあります。更に、日常の診療の中でももっと工夫した方がより良い結果が得られるものがあります。日頃から、何でも自分の目で確かめるようにしましょう。そして、研究を通して新しく得られた知見を学会発表や論文掲載していきましょう。
  4. コミュニケーション能力を身につけましょう。
    当院でのICU診療は、院内それぞれの専門科の協力を必要とします。それだけでなく、診療にあたっては院内の他部門(看護師、薬剤師、放射線技師、理学療法士、臨床工学士、管理栄養士等)の職員の協力が必要です。それぞれの専門家の知識および技術を全て有するスーパースターのような医師はあり得ません。それぞれの専門科と良好な関係を構築するコミュニケーション能力が医師には必要です。勿論、時には議論してお互いに知見を高めていくことも必要です。このような上手なコミュニケーションをとる能力が、特に集中治療医には必要です。

以上のような研修に加えて、subspeciality習得のために、麻酔科、内科各専門科などのローテ−ションも相談に応じます。

一般目標

院外・院内救急症例、大手術後症例の診察、観察、病態把握、治療を各専門領域の医師やコメディカルと協力して行えるようになるために、幅広い知識、技術、協調性を身に付ける。

行動目標

  1. 身体の生理(形態、機能)を理解して、的確な身体所見を得られる。
  2. 補助身体の生理(形態、機能)を理解して、的確な身体所見を得られる。
  3. 1)、2)の所見に加えて、必要時には各専門領域の医師、コメディカルと連携をとって、正しい診断、病態の把握ができる。
  4. 各種疾患の病態生理を正しく理解する。
    特に上記集中治療教育プログラムに記載されている疾患に加えて、下記の病態についても理解する
    (ア)くも膜下出血(SAH)(イ)脳内出血 (ウ)脳梗塞意識障害 (エ)急性呼吸不全(ALI/ARDS) (オ)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪 (カ)急性心不全(キ)急性心筋梗塞(ク)PCI術後(ケ)急性薬物中毒(コ)Septic Shock(Sepsis,SIRS)(サ)急性腎不全(シ)急性肝不全(劇症肝炎)(ス)重症急性膵炎(セ)大手術後(ソ)救急蘇生後
  5. 下記の項目について、知識として正しく理解し、診療の場で実践できる
    (ア)脳圧(ICP)の管理方法 (イ)(特に脳動脈瘤破裂による)SAH(くも膜下出血)の術後管理(脳循環の管理)(ウ)血液ガス所見の読み方(エ)気管挿管の適応と方法(オ)人工呼吸管理の適応(カ)人工呼吸器のモードの種類と適応(CMV,PCV,PSV,CPAP,PEEP)(キ)人工呼吸器からの離脱時期と方法(ク)呼吸不全の薬物療法(急性呼吸不全(ALI/ARDS)、COPD(ケ)カテコラミン類の使用方法(コ)肺動脈(Swan-Ganz)カテーテルのデータの読み方(サ)急性心筋梗塞の初期治療(シ)IABPの適応(ス)PCPSの適応(セ)急性薬物中毒の初期治療(ソ)SIRS,Sepsis,Septic shock、DICの病態と治療(タ)乏尿に対する対処(チ)急性血液浄化法の種類と適応(CHD,CHF,CHDF,PMX-DHP,PE) (ツ)栄養投与法とその適応(テ)低体温療法の適応(ト)脳死判定基準
  6. 各種ガイドラインを含めたエビデンスに基づいた治療を行える。
  7. 治療法だけでなく手技についても、知識として正しく理解し、診療の場で実践できる。また、その目的、方法、合併症と合併症に対する対策を正しく理解し、患者さまやそのご家族に対して説明して実施できる。
  8. 集中治療はチーム医療であることを認識し、常にカンファレンスに参加して治療方針について討論できる。
  9. 専門医資格の取得
    当院は、救急科専門医制度の基幹病院であり、当院独自のプログラムによって救急科専門医の取得が可能です。さらに日本集中治療医学会の集中治療専門医研修施設に認定されています。救急科専門医取得後に引き続いて集中治療専門医を取得することも可能ですし、当院の他の診療科で基本領域の専門医取得後に集中治療専門医を取得することも可能です。

プログラム

研修期間

原則として、日本集中治療医学会の集中治療専門医取得を目標とするため、下記のように研修期間を分類します。

①酔科専門医、救急科専門医を未取得の場合

研修期間を5年とします。この内、最初の3年間は日本集中治療医学会が指定する学会の専門医の取得を目標に、当科の救急科専門研修プログラムによって救急科専門医取得を目指すか、当院麻酔科の研修プログラムに沿って麻酔科専門研修を行っていただきます。

②麻酔科専門医、救急科専門医を取得後の場合

研修期間を3年とします。その内、一年次にICU研修を行います。2年次以降にER研修や麻酔科研修など、希望に応じて救急集中治療科以外の診療科での短期研修も可能です(応相談)。
また、①、②ともに日本集中治療医学会の集中治療専門医取得にあたり、当院では十分な経験が困難と思われる「多発外傷」、「広範囲熱傷」、「小児」、「移植レシピエント」等の管理を経験するために、6ヶ月―1年間大阪市立総合医療センターまたは兵庫医科大学のICUで研修していただきます(①の場合は5年次、②の場合は3年次。)。

③院内の他の診療科に属する特任医師の方の3-6ヶ月間のICU研修も希望に応じてお受けいたします。

達成目標

達成目標の基準を以下の5段階とします。全ての知識、技術等に関して、研修期間が残り2年となる時点までに「4」、残り1年となる時点までに「5」を目指します。

5:自分自身で行うにあたって、患者本人、家族や他科の医師に対して納得のいく説明が出来る。
4:下級医師に対して自信を持って指導できる。また、質問に答える事が出来る。
3:自信をもって、自分自身で出来る。
2:ほとんど自分自身で出来るが、時々上級医の助言、指導を必要とする。
1:上級医師の指導下でないと、自分自身で行なうには少々不安がある。

研修初期にはICUにおける患者様の診察の仕方(診察ポイント)を修得し(step 1)、その後病態の把握(アセスメント)が出来るようにします(step 2)。そして研修後期には診療計画を立てられるようにします(step 3)。どの時点で次のstepに進むかは、各医師の技量に応じて判断します。


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