歴史

放射線事故の患者さんへの骨髄移植治療が1950年代に実施されたことはありますが、成功には程遠い結果でした。1960年代の免疫学の進歩により、自己と他人を区別する抗原やそれを認識するリンパ球の存在が明らかとなり、1970年にE.D.Thomasらによって近代的な同種造血幹細胞移植が開始されました。後にE,D,Thomasは移植治療への功績が認められ、ノーベル医学賞を受賞しています。日本では数年遅れて1975年、名古屋、大阪、金沢で移植治療が開始されました。

種類

患者さんとドナーとの関係で同種移植と自家移植、移植に使用する細胞の種類により骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植があり、また近年移植前に使用する前処置の強さによってフル移植とミニ移植などの種類があります。自家末梢血幹細胞移植は当初悪性リンパ腫や骨髄腫などの造血器腫瘍や肺がん、卵巣がんなどの固形腫瘍に対して実施されましたが、現在は主に造血器腫瘍が対象となっています。

同種移植では移植前に大量の抗がん剤や放射線治療を必要とし、対象は若年者に限られていましたが、1990年代から導入された骨髄非破壊的前処置による移植法(redeuced intensity hematopoietic stem cell transplantation; RIST)の開発によって、高齢者や他にご病気を持っていらっしゃる患者さんにも移植治療が可能となっています。日本では1992年に公的な骨髄バンクが稼動し、その後さい帯血バンクも整備され、よりいっそう多くの患者さんが移植の機会が得られるようになっています。詳しくは骨髄バンクやさい帯血バンクのホームページをご参照下さい。

対象疾患

同種移植

急性骨髄性白血病ではその種類や予後因子によって適応や移植時期が異なります。
慢性骨髄性白血病は分子標的薬のグリベックが使用可能となって後は慢性期での移植は行われなくなっています。
急性リンパ性白血病は小児の予後の良いものを除けば、第1寛解期に実施することが推奨されています。
慢性リンパ性白血病や悪性リンパ腫では特殊な場合にのみ臨床研究として実施されます。

再生不良性貧血では重症型の場合、輸血量の少ない間に移植すると成績が良いといわれます。

自家移植

主な対象は悪性リンパ腫と多発性骨髄腫です。移植時期は疾患のタイプにより最初から化学療法と組み合わせて実施される場合と、再発してからの場合があります。

方法

同種移植

大量の抗がん剤や全身放射線照射などで患者さんの血液幹細胞を枯渇させ(前処置)、ドナーの血液幹細胞を輸注します。2~3週後にはドナーさん由来の血液細胞が増加してきますが、抵抗力が回復するには通常1~2年かかります。同種移植では他人の造血幹細胞移植を使用するため、多くの場合移植片対宿主病(GVHD)が発症します。その他、治療による不妊も妊娠可能年齢の患者さんでは問題となります。

自家末梢血幹細胞移植

抗がん剤投与後の血球回復期、あるいは白血球コロニー刺激因子投与による白血球増加時に連続血球分離装置を用いて末梢血から造血幹細胞を取り出し、移植まで冷凍保存をします。その後超大量の抗がん剤を投与した後、解凍した幹細胞を輸注します。使用する幹細胞が自己のものであるため、同種移植で問題となるGVHDは起こりません。同種移植に比べ移植関連死亡は極めて少なく、比較的ご高齢の患者さんでも実施が可能です。

成績

どんな病気か、どのタイプの移植を受けるかによって成績は随分異なります。
詳しくは日本造血細胞移植学会のホームページ、あるいは骨髄バンクのホームページをご覧下さい。


診療科紹介・部門