概要

多発性骨髄腫は、血液細胞の1つである「形質細胞」ががん化した、血液のがんです。形質細胞はBリンパ球が成熟した細胞で、免疫グロブリン(抗体)という病原菌から体を守 る働きをするタンパク質をつくっています。正常な形質細胞は骨髄に1%未満の割合でしか存在しませんが、多発性骨髄腫の場合、通常10%以上にまで増え、 異常な免疫グロブリンを産生し(M蛋白と呼ばれ、感染防御の働きをしません)、様々な症状を引き起こします。通常、全身の骨髄(多発性)で病気が発生しますが、時々ある一部分で"かたまり"(腫瘍)をつくる時があり、その腫瘍は形質細胞腫と呼ばれます。

一般的には慢性の経過をたどりますが、まれに急激に進行する場合もあります。病気の進行の程度は病期と呼ばれ以前より使用されているDurie & Salmon分類と、ISSと呼ばれる新しい国際病期分類があります。また、M蛋白の中に血液に溶けないものがあり色々な臓器に沈着して重篤な臓器障害を引き起こす時があります(アミロイドーシスと呼ばれます)。このように症状について個人差が大きく、個々の病状に合った治療を選択することが重要になります。

症状

多発性骨髄腫では多彩な症状が現れますが、これらは主に骨の障害、造血の障害、M蛋白による障害に分かれます。最も特徴的なのは、骨の破壊による症状です。骨からカルシウムが溶け出すことによって 血液中のカルシウムが高くなると(高カルシウム血症)、口の渇きや意識障害等が現れます。骨の破壊が進行すると骨がもろくなり、日常の動作でも骨折(病的 骨折)を来すことがあります。骨の破壊は頭蓋骨、脊椎、肋骨、骨盤等に多くみられます。特に胸椎や腰椎などの脊椎では、重力により押しつぶされる骨折(圧 迫骨折)が起こりやすく、背部痛や腰痛が生じます。さらに、背骨が強く変形すると、背骨の中を通っている脊髄という神経が圧迫されてしまい、手足のしびれ や麻痺、排尿や排便の障害等の非常に重篤な症状が起こります。また骨髄腫細胞が骨髄での造血を妨げることにより、倦怠感や息切れ、易感染性、出血傾向等の 症状が現れます。さらにM蛋白は腎臓などの臓器にも悪影響を及ぼすことがあり、腎の機能が低下してしまいます(むくみなどの症状がでます)。

検査

骨髄穿刺(こつずいせんし)という検査を行い、骨髄の造血の状態と骨髄腫細胞の割合および特徴を調べます。顕微鏡で観察される形態のほかに、細胞の表面に出ているマーカーの検査から、骨髄腫細胞の成熟 度について判定します。また、骨髄腫細胞に生じている染色体の異常について調べ、悪性度について判定します。診断時には、全身骨の状態についても調べま す。一般的にはレントゲン写真(X線写真)を撮り、骨病変の有無について判定します。最近ではCT検査やMRI検査により、微少な骨病変や骨髄腫細胞の骨 髄外への広がりについても詳しく診断できるようになっています。病勢や腎臓の機能を見るために採血や尿の検査も繰り返します。

治療

多発性骨髄腫の治療は大きく次の6つに分かれます。
(1)療せずに観察していく: 病勢がゆっくりで臓器障害がなく、骨病変がない場合選択されます。
(2)MP療法+ビスフォスフォネート製剤:以前より行われてきた標準的治療法で抗がん剤とステロイド剤を4日間内服します。骨折予防にビスフォスフォネート製剤の点滴を併用します。
(3)自家末 梢血幹細胞移植:非高齢者の方を対象に施行される治療法です。抗がん剤治療を何回か施行した後、自己の造血幹細胞を血球分離装置を用いて採取します。その後、造血幹細胞で 造血をサポートしながら大量の抗がん剤を投与して骨髄腫細胞にダメージを与えるという方法です。
(4)新規薬剤:サリドマイドやボルテゾミブといった骨髄腫に対する新しい薬剤が認可され骨髄腫の治療は格段に進歩しました。ただし特徴的な副作用が両方ともあり注意が必 要です。
(5)放射線療法:腫瘤を形成した部位や痛みの強い場所に施行します。抗がん剤治療とよく併用されます。
(6)同種造血幹細胞移植:非高齢者の方を対象に施行される治療法です。この病気に対しては、まだこれからの治療ですので詳細は主治医に確認してください。

多発性骨髄腫の年齢別罹患率

診療科紹介・部門